刑法第二三四条にいう「威力ヲ用ヒ」とは、一定の行為の必然的結果として、人の意思を制圧するような勢力を用いれば足り、必ずしもそれが直接現に業務に従事している他人に対してなされることを要しない。
刑法第二三四条にいう「威力ヲ用ヒ」の意義
刑法234条
判旨
刑法234条の威力業務妨害罪にいう「威力」とは、人の意思を制圧するような勢力を用いれば足り、必ずしも直接現に業務に従事している他人に対してなされることを要しない。また、貨車の開閉弁を開放して石炭を落下させ送炭を不能にする行為は、同罪の構成要件を充足し、正当な争議行為として違法性が阻却されることもない。
問題の所在(論点)
1. 業務に従事する者に対して直接なされたものではない物的損壊等の実力行使が、刑法234条の「威力」に該当するか。 2. 送炭業務を物理的に不能にする行為について、労働組合法1条2項による違法性阻却が認められるか。
規範
刑法234条の「威力」とは、犯人の威勢、人数、周囲の状況等に照らし、人の意思を制圧するに足りる勢力(有形・無形を問わない)を使用することをいう。これは一定の行為の必然的結果として、人の意思を制圧するような勢力を用いれば足り、必ずしもその勢力が直接現に業務に従事している他人に対してなされることを要しない。
重要事実
被告人ら3名は、会社の送炭業務を阻止するため、実力をもって貨車の開閉弁を開放した。その結果、貨車に積載されていた石炭をその場に落下させ、会社の出荷・送炭業務を不能ならしめた。被告人らは、この行為が威力業務妨害罪に該当しないこと、および労働組合法1条2項により正当な争議行為として違法性が阻却されることを主張して上告した。
あてはめ
1. 貨車の開閉弁を開放し石炭を落下させる行為は、客観的に見て送炭業務の継続を不可能にするほど強力な勢力の行使であり、人の意思を制圧するに足りる「威力」の行使にあたる。業務従事者に対する直接的な脅迫や暴行がなくても、業務の執行を事実上不可能にする状況を現出させれば足りる。 2. 本件行為は、実力をもって貨車から石炭を落下させ、物理的に送炭業務を不能にするものであり、手段の相当性を逸脱している。したがって、労働組合法1条2項の正当な行為には該当せず、違法性は阻却されない。
結論
被告人らの行為は威力業務妨害罪の構成要件を充足し、かつ正当な争議行為として違法性が阻却されることもないため、同罪が成立する。
実務上の射程
威力業務妨害罪における「威力」の概念を、自由刑の対象となる「暴行」等よりも広く、物的対象への実力行使も含むものとして確定した。労働争議の文脈であっても、物理的な業務破壊を伴う行為については、正当な争議行為としての限界を超え、刑事罰の対象となることを示した重要判例である。
事件番号: 昭和41(あ)3010 / 裁判年月日: 昭和42年11月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合員らによる坑内坐り込みおよび設備損壊等の争議行為について、手段・方法が社会通念上許容される限界を超えている場合には、威力業務妨害罪が成立する。憲法28条に基づく労働基本権の保障があるとしても、他人の財産権や業務執行権を過度に侵害する行為は正当な争議行為とは認められない。 第1 事案の概要:…
事件番号: 昭和31(あ)3844 / 裁判年月日: 昭和33年12月25日 / 結論: 破棄差戻
一 本件電源ストにおいて被告人らが排水門、制水門を開放して水力発電所の用水を放流した積極的な所為が、電源職場における被告人ら従業員の労務提供義務不履行行為にあたる理由を説示するところなく無罪とした原判決は、理由不備ないし重大な事実誤認の疑がある。 二 原判決が一面ピケツテイングは平和的説得ないし団結の示威を建前とすると…
事件番号: 昭和37(あ)426 / 裁判年月日: 昭和38年12月26日 / 結論: 棄却
刑法第二三四条の「威力」とは、犯人の威勢、人数および四囲の状勢よりみて、被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力と解する相当とし、かつ右勢力は客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足るものであればよいのであつて、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要するものではないと解すべきである(昭和二五年(れ)第一八六四…