判旨
労働組合員らによる坑内坐り込みおよび設備損壊等の争議行為について、手段・方法が社会通念上許容される限界を超えている場合には、威力業務妨害罪が成立する。憲法28条に基づく労働基本権の保障があるとしても、他人の財産権や業務執行権を過度に侵害する行為は正当な争議行為とは認められない。
問題の所在(論点)
労働組合員らによる坑内坐り込みおよび機械設備の損壊・稼働阻止を伴う争議行為が、憲法28条によって保障される正当な範囲内として刑法上の違法性を阻却するか、あるいは威力業務妨害罪(刑法234条)に該当するか。
規範
争議行為が刑法上の違法性を阻却し正当なものとして認められるためには、その手段および方法が「社会通念上許容される範囲」にとどまるものでなければならない。他人の業務を妨害する行為が、その態様や継続期間に照らして正当な争議行為の限界を超えると判断される場合には、刑法234条の威力業務妨害罪を構成する。
重要事実
被告人ら3名は、他の22名と共謀の上、勤務先である炭鉱の狭い坑底内に約10日間にわたって坐り込みを継続した。その間、会社側職員からの退去要求に対して嫌がらせの言動をもって拒否し、さらに坑内の交通幹線である捲機の終点部分にチェーンを巻き付け鉄材を差し込む等の工作を行った。これにより、400馬力捲機の運転を不能ならしめ、炭鉱の出炭業務を妨害した。
あてはめ
被告人らの行為は、単なる労働争議の示威活動にとどまらず、狭隘な坑内という特殊な場所を10日間もの長期間占拠し、かつ退去要求を拒絶し続けたものである。さらに、企業の生産活動に不可欠な基幹設備(捲機)に対して物理的な妨害工作を加え、その運転を不能にした点は、業務執行を物理的に遮断する性質が強い。これらの事実は、労働者の団体行動権の行使としても、社会通念上許容される手段・方法の限界を逸脱していると評価される。
結論
被告人らの行為は正当な争議行為にあたらず、威力業務妨害罪が成立する。
事件番号: 昭和27(あ)4798 / 裁判年月日: 昭和33年5月28日 / 結論: その他
労働争議に際し、使用者側の遂行しようとする業務行為を阻止するためにとられた労働者側の威力行使の手段(いわゆるピケツト、ライン)が、諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱したものと認められる場合には、威力業務妨害罪が成立し、したがつて、これを処罰することは、憲法第二八条に違反しない
実務上の射程
本判決は、労働争議の正当性の限界を「社会通念」に求めたものであり、特に生産設備の損壊や占拠が伴う場合の違法性判断に資する。答案上は、憲法28条による刑事免責の限界を論じる際、目的だけでなく「手段・方法の相当性」の検討材料として活用すべき射程を有している。
事件番号: 昭和31(あ)1864 / 裁判年月日: 昭和32年2月21日 / 結論: 棄却
刑法第二三四条にいう「威力ヲ用ヒ」とは、一定の行為の必然的結果として、人の意思を制圧するような勢力を用いれば足り、必ずしもそれが直接現に業務に従事している他人に対してなされることを要しない。