労働争議に際し、使用者側の遂行しようとする業務行為を阻止するためにとられた労働者側の威力行使の手段(いわゆるピケツト、ライン)が、諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱したものと認められる場合には、威力業務妨害罪が成立し、したがつて、これを処罰することは、憲法第二八条に違反しない
労働争議における労働者側の威力行使の手段(いわゆるピケツト、ライン)と威力業務妨害罪の成立および憲法第二八条
刑法234条,刑法233条,憲法28条,労働組合法1条2項
判旨
労働争議に伴うピケッティング等の行為であっても、使用者側の自由意思を抑圧し、または財産に対する支配を阻止するような威力行使は、正当な範囲を逸脱するものとして刑法上の威力業務妨害罪を構成する。
問題の所在(論点)
労働争議におけるピケッティング行為(座り込み等)が、憲法28条の保障する正当な争議行為として、刑法234条の威力業務妨害罪の違法性を阻却するか。
規範
労働争議権(憲法28条)は保障されるが、その本質は労務供給の不履行にある。したがって、使用者側の業務遂行に対し暴行・脅迫を用いることはもちろん、不当に使用者の自由意思を抑圧し、またはその財産に対する支配を阻止するような手段を用いることは許されない。これらの威力行使が諸般の事情に照らし正当な範囲を逸脱したと認められる場合には、威力業務妨害罪(刑法234条)が成立する。
重要事実
炭鉱労働組合による争議の際、争議脱退者や新規採用者によって炭炭業務が継続された。これに対し、被告人らは約100名の組合員と共に、3日間の長時間にわたり電車軌道上やその付近で座り込み、立ち塞がり、またはスクラムを組み、労働歌を高唱する等の行為に及んだ。これにより、電車の運行を阻止し、会社の出炭業務を妨害した。
事件番号: 昭和31(あ)306 / 裁判年月日: 昭和33年6月20日 / 結論: 棄却
被告人らが駐留軍横浜陸上輸送部隊と争議中、同部隊バス通用門から争議に参加しなかつた同部隊勤務の日本人運転手A外五人が駐留軍軍人、軍属らを輸送するためa駅に赴くべく各一台のバスを運転し一列縦隊で順次出門しようとするや、右通用門の前にピケラインを張つていた組合員約三〇名位と共謀の上、その出門を阻止しようとして右門前において…
あてはめ
本件における座り込みやスクラムによる軌道占拠は、単なる労務提供の拒否を超え、実力をもって物理的に他者の業務遂行を阻むものである。100余名という多人数で長時間にわたり電車の運行を物理的に阻止した事実は、不当に使用者の自由意思を抑圧し、会社の財産(軌道等)に対する支配を実力で阻止する行為に該当する。したがって、諸般の事情を総合すれば、本件行為は正当な争議行為の範囲を逸脱した威力行使といえる。
結論
本件行為は正当な争議行為とは認められず、刑法234条(威力業務妨害罪)が成立する。
実務上の射程
労働争議に伴う刑事責任の限界を示す重要判例である。ピケッティングが「平和的説得」の範囲を超え、物理的・実力的な阻止に至った場合には、威力業務妨害罪や建造物侵入罪の成立を肯定する論拠として答案上活用できる。特に「自由意思の抑圧」や「財産への支配の阻止」というキーワードは、違法性阻却の判断基準として有用である。
事件番号: 昭和41(あ)3010 / 裁判年月日: 昭和42年11月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合員らによる坑内坐り込みおよび設備損壊等の争議行為について、手段・方法が社会通念上許容される限界を超えている場合には、威力業務妨害罪が成立する。憲法28条に基づく労働基本権の保障があるとしても、他人の財産権や業務執行権を過度に侵害する行為は正当な争議行為とは認められない。 第1 事案の概要:…
事件番号: 昭和30(あ)1817 / 裁判年月日: 昭和35年5月26日 / 結論: 棄却
炭鉱において鉱員と職員とが分かれてそれぞれ労働組合と職員組合とに属している場合に、労働組合のみがストライキ実行中、争議行為に加わつていない職員が就業のため出勤するに際し、労働組合員がスクラムを組み体当りを以つて職員を押し返したときは、威力業務妨害罪を構成する。