被告人らが駐留軍横浜陸上輸送部隊と争議中、同部隊バス通用門から争議に参加しなかつた同部隊勤務の日本人運転手A外五人が駐留軍軍人、軍属らを輸送するためa駅に赴くべく各一台のバスを運転し一列縦隊で順次出門しようとするや、右通用門の前にピケラインを張つていた組合員約三〇名位と共謀の上、その出門を阻止しようとして右門前において、組合員数名とともに右Aの運転するバス前面の道路上に寝転んで、その進行を停止せしめたほか、Aに対し暴行を加えるなどしてそのバス運転を不能ならしめると同時に、強いてバスを運転して出門しようとした外五名の出門をも不能ならしめて同人らの運転業務を妨害する所為は、憲法第二八条の保障する争議権の行使であるとはいえない
憲法第二八条の保障する争議権の行使にあたらない事例
憲法28条,刑法234条,刑法233条
判旨
憲法28条の団体行動権の保障は無制限ではなく、同盟罷業の本質を逸脱して使用者側の自由意思を不法に抑圧し、暴行・脅迫をもって業務の遂行を妨害する行為は正当な争議行為とは認められない。
問題の所在(論点)
憲法28条が保障する団体行動権(争議権)の限界。特に、ピケッティングにおいて暴行や威力を用いて使用者側の業務遂行を物理的に阻止する行為が、正当な争議行為として免責されるか。
規範
労働基本権の保障は、国民の平等権や自由権等の基本的人権に優先するものではない。同盟罷業の本質は、労働者が団結して労務供給を拒否することにある。したがって、使用者側が自ら行おうとする業務遂行に対し、暴行・脅迫や多衆の威力を用いて物理的に阻止し、使用者側の自由意思を不法に抑圧するような行為は、争議行為としての正当性の範囲を逸脱する。
重要事実
駐留軍輸送部隊の労働組合員である被告人らは、ストライキ期間中、出門しようとするバスの運行を阻止するため、組合員約30名と共謀してピケラインを張った。具体的には、(1)バス前面の道路上に寝転んで進行を停止させ、(2)竹竿を運転台窓からハンドルめがけて突き込み、(3)バス内に乗り込んで運転手を車外へ押し出し転落させる等の暴行を加えた。これにより、運転手らの業務を妨害した。
事件番号: 昭和39(あ)744 / 裁判年月日: 昭和39年11月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条の保障は無制限ではなく、勤労争議において使用者側の自由意思を剥奪し、または極度に抑圧するような暴力的な行為は正当な団体行動権の行使とは認められない。団体交渉において刑法上の暴行罪等に該当する行為が行われた場合、労働組合法1条2項による刑事罰の免責(刑法35条の適用)は受けられない。 第1…
あてはめ
被告人らの行為は、単なる労務提供の拒否にとどまらず、道路上への寝込み、竹竿の突き込み、運転手に対する身体的暴行といった物理的強制力を行使するものである。これは多衆の威力を用いて使用者側の自由な業務遂行を妨害するものであり、同盟罷業の本質的手段である「労働力を利用させないこと」を明らかに逸脱している。したがって、使用者側の自由意思を不法に抑圧する暴力的・物理的妨害行為といえる。
結論
被告人らの行為は争議権の行使として許される範囲を逸脱しており、正当な争議行為とは認められない。したがって、威力業務妨害罪等の刑事責任を免れない。
実務上の射程
ピケッティングの正当性に関するリーディングケース。ストライキにおける「実力行使」が、説得による平和的ピケを超え、物理的・強制的な阻止に至った場合には正当性を失うという規範を示す際に用いる。労働刑法の文脈では、刑法35条の正当業務行為の該当性を判断する基準として位置づけられる。
事件番号: 昭和27(あ)4798 / 裁判年月日: 昭和33年5月28日 / 結論: その他
労働争議に際し、使用者側の遂行しようとする業務行為を阻止するためにとられた労働者側の威力行使の手段(いわゆるピケツト、ライン)が、諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱したものと認められる場合には、威力業務妨害罪が成立し、したがつて、これを処罰することは、憲法第二八条に違反しない
事件番号: 昭和30(あ)1817 / 裁判年月日: 昭和35年5月26日 / 結論: 棄却
炭鉱において鉱員と職員とが分かれてそれぞれ労働組合と職員組合とに属している場合に、労働組合のみがストライキ実行中、争議行為に加わつていない職員が就業のため出勤するに際し、労働組合員がスクラムを組み体当りを以つて職員を押し返したときは、威力業務妨害罪を構成する。
事件番号: 昭和35(あ)2920 / 裁判年月日: 昭和36年7月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合による行為であっても、多数で長時間取り囲み、脅迫を用いて相手方の自由意思を抑圧し、義務のないことを行わせる行為は、正当な組合活動の範囲を逸脱し、違法性を有する。 第1 事案の概要:被告人らは、労働組合の活動として、他の多数の組合員らと共に長時間にわたって被害者Aを取り囲んだ。その際、被告人…
事件番号: 昭和31(あ)3054 / 裁判年月日: 昭和32年4月25日 / 結論: 棄却
被告人らが株式会社Aと争議中、同会社の組合員数十名とともにスクラムを組んで甲外四名の同会社の女子従業員(いずれも非組合員)をとりかこみ、労働歌を高唱し、ワツシヨ、ワツシヨと掛声をかけて気勢をあげながら、約二〇分間にわたり右同従業員等に対し、押す、体当りするなどの行動を続ける所為は、憲法第二八条の保障する団体行動権の行使…