被告人が、A労働組合組合員約一五〇名と共謀し、多数乗客を乗せて駅に入構した旅客列車の前方斬条上に共にスクラムを組んでうずくまるなどし、また乗務員をその腕を抱えるなどして強いて下車させ、これによつて午後八時ころから同八時四四分ころまでの間右列車の発進を不能ならしめた所為は、その目的が原認定(原判文参照)のとおりであり、右乗務員が前記A労働組合所属のものである事情を考慮しても、法秩序全体の見地から許容しがたい不法な威力の行使による業務の妨害にあたる。
いわゆるピケツテイングなどによつて旅客列車の発進を一時不能ならしめた所為につき威力業務妨害罪の成立が認められた事例
刑法35条,刑法234条
判旨
公共企業体等労働関係法17条1項により争議行為が禁止されている労働者による行為であっても、労働組合法1条2項の適用は否定されない。しかし、多数の乗客を乗せた列車の軌条上に座り込み、乗務員を強制的に下車させて列車の発進を不能にする行為は、法秩序全体の見地から許容しがたい不法な威力の行使にあたり、威力業務妨害罪が成立する。
問題の所在(論点)
公共企業体等の労働者による争議行為が、労働組合法1条2項により威力業務妨害罪(刑法234条)の刑事免責を受けるための限界(正当性の有無)が問題となる。
規範
労働組合法1条2項(正当な争議行為の刑事免責)の適用については、当該争議行為が公共企業体等労働関係法17条1項により禁止されている場合であっても直ちに否定されるものではない。しかし、当該行為が「正当な行為」といえるかは、行為の時期、場所、方法、態様、影響等の具体的事実関係を総合考慮し、法秩序全体の見地から許容されるか否かによって判断すべきである。特に、不法な威力の行使による業務妨害が、社会通念上許容される限度を超えている場合には、刑事免責は認められない。
重要事実
被告人らは、労働組合員約150名と共謀し、日本国有鉄道尾久駅構内において、多数の乗客を乗せた旅客列車の前方軌条上に、数列の縦隊となってスクラムを組みうずくまった。さらに、下車要求を拒否した機関士及び機関助士に対し、その腕を抱えるなどして強引に下車させた。これらの行為により、約44分間にわたり当該列車の発進を不能にした。
あてはめ
本件行為は、多数の乗客を乗せて現に運行中の列車の進路を物理的に遮断するものである。さらに、職務を継続しようとする乗務員に対して物理的な強制力を行使して下車させるという態様は、実力行使による業務妨害の程度が極めて著しい。列車の乗務員が同じ労働組合の所属であったことや、列車阻止の目的を考慮したとしても、このような時期・場所・方法による威力の発現は、法秩序全体の見地からみて正当な争議行為の範囲を逸脱しており、不法な威力の行使にあたると評価される。
結論
被告人らの所為は威力業務妨害罪を構成し、その正当性は否定されるため、同罪が成立するとした原判決の結論は相当である。
実務上の射程
全農林警職法事件判決(最大判昭48・4・25)後の判断枠組みを踏襲しており、公務員等の争議行為であっても、刑事免責の有無は一律に否定せず、態様の相当性を「法秩序全体の見地」から判断する実務を示す。答案上は、実力行使を伴う争議行為の正当性を判断する際のメルクマール(時期・場所・方法・態様等)として引用できる。
事件番号: 昭和47(あ)758 / 裁判年月日: 昭和53年6月29日 / 結論: 破棄自判
公共企業体等労働関係法一七条一項違反の争議行為として行われた本件威力業務妨害行為は、刑法上の違法性を欠くものではない。