札幌市役所関係労働組合連合会所属の被告人らが、他の約四〇名とともに、車庫内において市電の前に立ちふさがり、その出庫を阻止して業務を妨害した場合においても、その行為が、市当局の長期間にわたる不当な団体交渉の拒否等に対処し、団体交渉における労使の実質的対等を確保するため、やむなくなされた市電等への乗務拒否を主眼とする同盟罷業中に、これから脱落した組合員が、当局側の業務命令に従つて市電を運転して車庫外に出ようとしたので、組合の団結がみだされ同盟罷業がその実効性を失うのを防ぐ目的で、とつさに市電の前に立ちふさがり、市電を出さないように叫んで翻意を促し、これを腕力で排除しようとした当局側の者ともみ合い、前後約三〇分間、乗客のいない車庫内で市電の出庫を阻止したものであつて、その間直接暴力に訴えるというようなことがなかつた等の事情(判文参照)があるときは、これを正当な行為ということができる。
市電の出庫を阻止したピケツテイングが正当な行為とされた事例
刑法35条,刑法234条,労働組合法1条2項,地方公営企業労働関係法4条,地方公営企業労働関係法11条1項
判旨
地方公営企業職員の争議行為に伴う威力業務妨害行為であっても、争議に至る経緯や目的、態様、場所等の諸般の事情に照らし、正当な行為として実質的違法性を欠く場合がある。本件のように、当局の不誠実な対応によりやむなく開始された同盟罷業において、脱落組合員の就業を一時的に阻止した行為は、暴力が伴わず短時間であれば正当な行為として罪とならない。
問題の所在(論点)
地方公営企業労働関係法で争議行為が禁止されている職員らによる、威力を用いたピケッティング行為が、威力業務妨害罪(刑法234条)の構成要件に該当しつつも、実質的違法性を欠く「正当な行為」として認められるか。
規範
争議行為としてのピケッティング等の行為が正当な行為(刑法35条、労組法1条2項)として違法性を阻却されるかは、当該行為に出た経緯、目的、時間、態様(暴力の有無等)、場所(私企業の施設か公的施設か等)といった諸般の事情を総合考慮し、社会通念上許容される範囲内にあるか否かによって判断する。単純な不作為にとどまらない威力を用いた妨害であっても、具体的な事情の下で正当性が認められ得る。
重要事実
札幌市営電車の組合員らが、勤務条件の改善を求めて1年以上の団体交渉を行ったが、当局が不当に拒絶・遅延させたため同盟罷業に突入した。その際、ストから脱落して当局の命令で市電を運転しようとした組合員に対し、被告人ら約40名が電車の前に立ちふさがり、翻意を促すため進行を阻止した。行為は乗客のいない車庫内で約30分間行われ、当局側とのもみ合いはあったが、直接の暴力行使はなかった。
あてはめ
まず、本件争議は当局の不誠実な交渉拒否や引延し等によりやむなく開始されたものであり、目的において人を納得させるに足りる。次に、態様についても、脱落組合員の翻意を促し組合の団結を維持する目的で、とっさに市電の前に立ちふさがったものであり、30分という短時間で直接の暴力も伴っていない。さらに、場所も乗客のいない車庫内であり、実質的に私企業と大差ない公営企業の業務に対するものである。これらの事情を総合すれば、本件行為は社会通念上相当な範囲内にあるといえる。
結論
被告人らの行為は、威力業務妨害罪の構成要件に該当するとしても、正当な行為として実質的違法性を欠くため、無罪とする原判断は相当である。
実務上の射程
公務員・公営企業職員の争議権が制限される中で、本判決は『全農林警職法事件』以前の緩和された判断枠組み(中郵事件の流れ)に依拠している点に注意が必要。現在の実務では、公務員の争議行為は原則として正当性を否定される傾向が強いが、私企業に近い現業部門において、当局側に帰責性がある特殊な事案での違法性阻却の限界を検討する際の参考となる。
事件番号: 昭和45(あ)2373 / 裁判年月日: 昭和49年7月16日 / 結論: 棄却
被告人が、A労働組合組合員約一五〇名と共謀し、多数乗客を乗せて駅に入構した旅客列車の前方斬条上に共にスクラムを組んでうずくまるなどし、また乗務員をその腕を抱えるなどして強いて下車させ、これによつて午後八時ころから同八時四四分ころまでの間右列車の発進を不能ならしめた所為は、その目的が原認定(原判文参照)のとおりであり、右…