判旨
他人の権利が含まれる可能性を認識しながら、対象物全体が自己の権利に属すると装って相手方を欺き、財物を交付させた場合には詐欺罪が成立する。
問題の所在(論点)
対象物の一部に他人の権利が含まれている可能性を認識しつつ、全部が自己の権利に属するように装って財物を交換取得する行為が、詐欺罪(刑法246条1項)の欺罔行為に該当するか。
規範
刑法246条の欺罔行為とは、財物交付の判断の基礎となる重要な事項について真実を偽ることをいう。対象物の権利帰属に疑念があるにもかかわらず、確実な自己の権利物であるかのように装い、交換等の取引に応じさせる行為は、相手方が真実を知っていれば交付に応じなかったといえるため、詐欺罪の欺罔行為に該当する。
重要事実
被告人Bは、本件組合が所有する山林(実測約43町歩)との交換により国有林を騙取しようと考えたが、交換対象として提示した山林(実測約64町歩)のうち、超過する約21町歩分が町所有の学校林に含まれるのではないかとの疑念を抱いていた。それにもかかわらず、Bは全64町歩が組合所有であるかのように装って営林署長を欺き、これと交換に国有林を騙取した。
あてはめ
被告人Bは、提供する山林の一部(約21町歩)について他人の権利である疑いを持っていた。この事実は、国有林との交換取引において、相手方である営林署長が取引を継続するか否かを判断する上で極めて重要な事項である。Bがこの疑念を秘して、全山林が組合所有であると装ったことは、真実を偽って相手方を錯誤に陥らせる行為といえる。したがって、この欺罔行為に基づき国有林の交付を受けた以上、詐欺罪が成立する。
結論
被告人に詐欺罪が成立するとした原判決の判断は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
権利の帰属が不明確な不動産等を取引に供する場合、相手方がその事実を知れば取引しなかったであろう重要な事情を秘匿して確実な権利物と装う行為は、詐欺罪を構成する。答案上は、不告知による欺罔ではなく「権利者であると積極的に装った」という作為の欺罔として整理するのが適切である。
事件番号: 昭和41(あ)2732 / 裁判年月日: 昭和42年8月28日 / 結論: 棄却
甲から金員を騙取するため、乙名義の偽造の委任状等を登録官吏に提出し、乙の不動産の登記簿の原本に抵当権が設定された旨の不実の記載をさせて、これを行使するとともに、甲にその登録済権利証を示して、抵当権設定登録を経由した旨誤信させ、同人から借用金名下に金員を騙取したときは、公正証書原本不実記載罪とその行使罪と詐欺罪との牽連犯…
事件番号: 昭和28(あ)3652 / 裁判年月日: 昭和30年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上占有する他人の物を自己の利得のために処分する行為は、背任罪ではなく業務上横領罪を構成する。また、預金に際して実在する他人の氏名を使用したとしても、その名義人は虚無人とはいえない。 第1 事案の概要:被告人は、業務上の地位に基づき管理・占有していた金員を、自己の利益を図る目的で処分した(判示第…
事件番号: 昭和39(あ)2465 / 裁判年月日: 昭和40年9月10日 / 結論: 棄却
一個の欺罔行為により財産上不法の利益を得、かつ、財物を騙取した場合は、単一なる詐欺罪を構成するものと解すべきである。