判旨
自動車運転者において、減速徐行及び前方注視の義務を怠ったことは、重過失(刑法211条後段)に該当すると判断される。
問題の所在(論点)
自動車の運転において、減速徐行義務および前方注視義務を怠ったことが、刑法211条後段(重過失致死傷罪)の「重大な過失」にあたるか。
規範
刑法211条後段にいう「重大な過失」とは、注意義務違反の程度が著しく、結果発生が容易に予見でき、かつ回避することが容易であった場合を指す。具体的には、運転者が払うべき基本的な注意義務を著しく怠ったか否かにより判断される。
重要事実
被告人が自動車を運転中、減速して徐行すべき状況、かつ前方を十分に注視すべき状況であったにもかかわらず、これらの義務を怠り、漫然と運転を継続した結果、事故を惹起した事案である(具体的な衝突の経緯等は判決文からは不明)。
あてはめ
被告人は、当時の道路状況等に照らして当然に求められる減速徐行を行わず、かつ前方を注視するという運転上の基本的な義務を懈怠している。このような基本的な注意義務の不履行は、過失の程度が著しく、道路交通上の危険を著しく高める行為であるといえる。したがって、単なる過失にとどまらず、重過失として評価されるのが正当である。
結論
被告人が減速徐行及び前方注視の義務を怠ったことは重過失にあたり、重過失致死傷罪が成立する。
実務上の射程
重過失の意義について、単に不注意の程度が著しいという抽象的な判断にとどまらず、具体的な義務(減速・前方注視)の懈怠を構成要素として認定する際の参考となる。特に交通事犯における重過失の認定基準を示す例として機能する。
事件番号: 昭和25(れ)1425 / 裁判年月日: 昭和26年2月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自動車運転者は常に前方注視義務を負う。道路上の障害物に直近まで気づかなかった場合、その原因が他事への注視か否かを問わず、前方注視義務違反および適切な回避措置の不履行として過失が認められる。 第1 事案の概要:被告人は自動車を運転中、進行方向の道路上に荷車が置かれていたにもかかわらず、わずか1メート…
事件番号: 昭和37(あ)2816 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
一 業務上過失致死傷罪にいわゆる業務につき、それが社会生活上の地位に基づきなされることを要しないとの原判示は相当でないが、原判決は被告人が自動車の運転を反覆断続して行なつていた事実を認定しているところ、右事実はとりもなおさず社会生活上の地位にほかならないから、結局原判決の右法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼさない。 二 …
事件番号: 昭和41(あ)2622 / 裁判年月日: 昭和42年3月16日 / 結論: 棄却
対向車が被告人の運転する車両の進路である道路の左側部分を通り容易に右側に転じないような特殊な場合には、被告人が交通法規に従つてそのまま進行すれば対向車と衝突し、死傷の結果を生ずることが予見できるのであるから、自動車運転車としては、まさに警音器を吹鳴して対向車に避譲を促すとともに、すれ違つても安全なように減速して道路左端…
事件番号: 昭和37(あ)986 / 裁判年月日: 昭和38年12月26日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】交通事故を起こして逃走するいわゆる「ひき逃げ」の場合、道路交通法72条1項前段の救護義務違反の罪と、同条項後段の報告義務違反の罪がともに成立し、これらは併合罪の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、無免許で車両を運転中に重過失致死にあたる交通事故を起こした。被告人は、負傷者の救護等の措置を講ず…