対向車が被告人の運転する車両の進路である道路の左側部分を通り容易に右側に転じないような特殊な場合には、被告人が交通法規に従つてそのまま進行すれば対向車と衝突し、死傷の結果を生ずることが予見できるのであるから、自動車運転車としては、まさに警音器を吹鳴して対向車に避譲を促すとともに、すれ違つても安全なように減速して道路左端を進行するか、一時停車して対向車の通過を待つて進行するなど、臨機の措置を講じて危害の発生を未然に防止すべき注意義務がある。
交通法規に従つた自動車の運転と注意義務
刑法211条
判旨
自動車運転者は、対向車が自車の進路を塞ぎ衝突の危険が予見できる特殊な場合には、警音器の吹鳴や減速、一時停車等の臨機の措置を講じて危害を防止すべき注意義務を負う。本件では、これらの措置を怠り、逆にハンドルを右に切って進出した点に過失が認められる。
問題の所在(論点)
対向車が自車の進路を進行してくるという特殊な状況下において、運転者が交通法規に従って進行するだけでなく、さらに踏み込んだ事故回避措置(警音器の吹鳴、一時停車、左端への回避等)を講じるべき注意義務(刑法211条前段の過失)を負うか。
規範
自動車運転者は、交通法規に従って進行しても対向車と衝突し死傷の結果が生じるおそれがあることを予見できる特殊な場合には、警音器を吹鳴して避譲を促すとともに、安全な減速・左端進行や一時停車による通過待ちなど、臨機の措置を講じて危害の発生を未然に防止すべき注意義務を負う。
重要事実
被告人は自動車を運転中、対向車が被告人の進路である道路左側部分を通り、容易に右側に転じないような特殊な状況に遭遇した。被告人はわずかに減速したのみで、警音器の吹鳴や一時停車等の措置を講じなかった。さらに、対向車と十数メートルの距離に接近した際、ハンドルを右に切って対向車の前に進出した結果、事故が発生した。
あてはめ
対向車が容易に退かない状況では、そのまま進行すれば衝突の結果が生じることは予見可能であった。それにもかかわらず、被告人は警音器による警告や安全な減速・一時停車といった回避措置を怠った。そればかりか、至近距離でハンドルを右に切るという不適切な操作を行っており、結果回避義務に違反したといえる。
結論
被告人には業務上過失致死傷罪(当時の罪名、判断枠組みとして)における過失が認められる。
実務上の射程
信頼の原則が否定される「特殊な場合」における過失の認定指針となる。相手方の交通違反が顕著で、自車が優先であっても、衝突が具体的に予見できる場合には回避義務が生じることを示す事例として、答案上では過失の具体的予見可能性と結果回避義務の検討に活用できる。
事件番号: 昭和43(あ)373 / 裁判年月日: 昭和44年4月25日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】業務上の注意義務は、他者の異常な行動を予見して自ら危険な回避行動をとることまでを当然に要求するものではなく、回避措置が他の法益を危うくする場合は過失が否定される。 第1 事案の概要:被告人は貨物自動車を運転中、自転車2台を追い越すため道路中央から右側へ50cmはみ出して進行した。その際、前方約34…
事件番号: 昭和42(あ)710 / 裁判年月日: 昭和42年10月24日 / 結論: 棄却
自動車を運転していた甲が、自転車で通行中の乙と衝突し、これを自車の屋根の上にはね上げたまま走行中、これに気づいた同乗者丙が、乙の身体をさかさまに引きずり降ろし、舗装道路上に転落させた場合において、乙が右自動車との衝突および右道路免への転落によつて頭部等に傷害を負い、右頭部の打撲に基づく脳くも膜下出血等によつて死亡したと…