自動車を運転していた甲が、自転車で通行中の乙と衝突し、これを自車の屋根の上にはね上げたまま走行中、これに気づいた同乗者丙が、乙の身体をさかさまに引きずり降ろし、舗装道路上に転落させた場合において、乙が右自動車との衝突および右道路免への転落によつて頭部等に傷害を負い、右頭部の打撲に基づく脳くも膜下出血等によつて死亡したときは、甲の前記過失行為と被害者の死との間に、刑法上の因果関係があるとはいえない。
他人の行為の介入があつた場合に刑法上の因果関係が否定された事例
刑法第1編第7章(犯罪ノ不成立及ヒ刑ノ減免),刑法211条
判旨
実行行為後に介在した第三者の異常な行為によって死の結果が発生した可能性がある場合、実行行為から当該結果が発生することが経験則上当然に予想できない限り、因果関係は否定される。
問題の所在(論点)
実行行為(自動車衝突)の後に、第三者(同乗者A)の極めて不自然な行為が介在して結果(被害者の死亡)が発生した場合、実行行為と結果との間に刑法上の因果関係が認められるか。
規範
刑法上の因果関係は、実行行為と結果との間に、単なる条件関係があるだけでなく、当該行為から当該結果が発生することが経験則上相当といえる場合に認められる。実行行為後に第三者の行為が介在した場合、その介在行為の異常性や、実行行為から結果が発生することが経験則上当然に予想しうるか否かを基準に判断すべきである。
重要事実
被告人は自動車運転中、過失により自転車と衝突し、被害者を自車の屋根にはね上げたが、これに気づかず4キロメートル走行した。その後、同乗者Aが屋根上の被害者に気づき、時速約10キロメートルで走行中の車上から被害者を逆さまに引きずり降ろしてアスファルト道路上に転落させた。被害者は脳出血等により死亡したが、死因となった頭部傷害が「最初の衝突時」か「転落時」のいずれで生じたか確定できなかった。
事件番号: 昭和46(あ)1878 / 裁判年月日: 昭和47年4月21日 / 結論: 棄却
一 第一審判決判示第一の事実につき、被告人の過失と被害者の致死の結果との間に因果関係を認めた原判決の判断は、その認定の事実関係のもとにおいては、正当である。 二 (原判示の要旨)被告人は深夜普通乗用自動車を運転して原判示道路を時速約四〇キロメートルで進行中、対向車の前照灯に眩惑されたにもかかわらず減速、徐行の措置をとら…
あてはめ
同乗者が走行中の自動車の屋根から被害者を逆さまに引きずり降ろし、アスファルト上に転落させるという行為は、経験上、普通は予想し得ない異常な行為である。また、本件では死因となった傷害が衝突時か転落時か確定できない状況にある。そうであれば、被告人の過失行為から被害者の死の結果が発生することが、経験則上当然に予想される範囲内にあるとは到底いえない。したがって、介在した第三者の異常な行為が結果への寄与度を強く有しており、実行行為との因果関係は遮断されると解される。
結論
被告人の行為と死の結果との間に因果関係は認められず、業務上過失致死罪は成立しない(業務上過失傷害罪にとどまる)。
実務上の射程
介在事情がある事案において、介在行為の異常性が著しく、かつ当該行為が死の結果に直結した可能性がある場合に、因果関係を否定する方向で活用する。相当因果関係論における「介在事情の異常性(予見不可能性)」を重視した判断枠組みとして重要である。
事件番号: 昭和37(あ)2816 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
一 業務上過失致死傷罪にいわゆる業務につき、それが社会生活上の地位に基づきなされることを要しないとの原判示は相当でないが、原判決は被告人が自動車の運転を反覆断続して行なつていた事実を認定しているところ、右事実はとりもなおさず社会生活上の地位にほかならないから、結局原判決の右法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼさない。 二 …
事件番号: 昭和41(あ)2622 / 裁判年月日: 昭和42年3月16日 / 結論: 棄却
対向車が被告人の運転する車両の進路である道路の左側部分を通り容易に右側に転じないような特殊な場合には、被告人が交通法規に従つてそのまま進行すれば対向車と衝突し、死傷の結果を生ずることが予見できるのであるから、自動車運転車としては、まさに警音器を吹鳴して対向車に避譲を促すとともに、すれ違つても安全なように減速して道路左端…
事件番号: 昭和42(あ)2747 / 裁判年月日: 昭和44年2月5日 / 結論: 棄却
一所為数法の関係にあたると認定された所為を併合罪にあたると主張する上告論旨は、被告人にとつて不利益な主張であつて、上告理由として許されない。