一 第一審判決判示第一の事実につき、被告人の過失と被害者の致死の結果との間に因果関係を認めた原判決の判断は、その認定の事実関係のもとにおいては、正当である。 二 (原判示の要旨)被告人は深夜普通乗用自動車を運転して原判示道路を時速約四〇キロメートルで進行中、対向車の前照灯に眩惑されたにもかかわらず減速、徐行の措置をとらなかつた過失により、道路を横断歩行中のAの発見がおくれ、自車右前部を同女に衝突させ対向車線上に跳ねとばして両下腿骨骨折等の傷害を負わせたこと、被告人が右事故を起こしたのにそのままその場を立ち去つたため、対向車線上に転倒横臥していた被害者はその後間もなく対向車線上を反対方向から進行してきたB運転の普通自動車に轢過され、外傷性心臓(右心房)破裂により死亡したことが明らかである。 三 右のように被害者の死亡した直接の原因は被告人運転の自動車の衝突によるものではなく、B運転の自動車の轢過によつて生じたものであることは所論指摘のとおりであるけれども、本件道路は商店街にあつて直線道路で見通しはよいのであるが、深夜であつたため照明は薄暗くなつており、昼間程には自動車の交通は頻繁ではないが、なお、かなりの交通量があつたと認められるから、自己の過失ある行為によつて路上に転倒した被害者をそのまま放置するにおいては、被告人が逃走したあとで現場付近を通行する自動車によつて轢過される虞れの強いことは容易に予測されるところであるから、被告人の前記過失ある行為と被害者の死亡との間には因果関係があるというべきである。
被告人の過失と被害者の致死の結果との間に因果関係があるとされた事例
刑法第1編第7章,刑法211条
判旨
被告人の過失行為と被害者の致死の結果との間に、認定された事実関係のもとで因果関係を肯定した原判断は正当である。
問題の所在(論点)
刑法上の過失致死罪等における、被告人の過失行為と被害者の死亡という結果との間の因果関係の存否。
規範
刑法上の因果関係の有無は、被告人の実行行為から当該結果が発生することが、経験則上、相当といえるか否か(相当因果関係の存否)によって判断される。なお、本決定の文言上は具体的な判断枠組みを詳述していないが、原判決の判断を正当として維持する形式を採っている。
事件番号: 昭和42(あ)710 / 裁判年月日: 昭和42年10月24日 / 結論: 棄却
自動車を運転していた甲が、自転車で通行中の乙と衝突し、これを自車の屋根の上にはね上げたまま走行中、これに気づいた同乗者丙が、乙の身体をさかさまに引きずり降ろし、舗装道路上に転落させた場合において、乙が右自動車との衝突および右道路免への転落によつて頭部等に傷害を負い、右頭部の打撲に基づく脳くも膜下出血等によつて死亡したと…
重要事実
被告人の過失行為(第一審判決判示第一の事実)により、被害者が死亡するに至った事案。被告人側は過失と結果との間の因果関係を争い、事実誤認および法令違反を理由に上告した。具体的な過失の内容や被害者の死因等の詳細は、本決定文の記載からは不明である。
あてはめ
最高裁は、原判決が認定した事実関係を前提とするならば、被告人の過失と被害者の致死の結果との間に因果関係を認めた判断は正当であるとした。特段、介在事情による因果関係の遮断を認めるべき特段の事情も記録上認められないと判断されたものと解される。
結論
被告人の行為と結果との間に因果関係が認められる。
実務上の射程
本決定は、具体的な判断基準を示したものではないが、過失犯における因果関係の判断において、原審の認定した事実関係を基礎に相当因果関係を肯定する実務上の運用を追認した事例として位置づけられる。答案作成上は、行為から結果が発生することが社会通念上相当かという一般的枠組みの中で活用することになる。
事件番号: 昭和37(あ)2816 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
一 業務上過失致死傷罪にいわゆる業務につき、それが社会生活上の地位に基づきなされることを要しないとの原判示は相当でないが、原判決は被告人が自動車の運転を反覆断続して行なつていた事実を認定しているところ、右事実はとりもなおさず社会生活上の地位にほかならないから、結局原判決の右法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼさない。 二 …
事件番号: 昭和47(あ)1600 / 裁判年月日: 昭和48年2月15日 / 結論: 棄却
道路交通法七二条一項後段、一一九条一項一〇号の規定が憲法三八条一項に違反するものでないことは等裁判所大法廷判決(昭和三五年(あ)第六三六号同三七年五月二日言渡、刑集一六巻五号四九五頁)の趣旨に徴し明らかである。
事件番号: 昭和45(あ)2031 / 裁判年月日: 昭和47年3月28日 / 結論: 棄却
道路交通法一一七条の罪の成立に必要な事実の認識は、必ずしも確定的な認識であることを要せず、未必的な認識でも足りる。
事件番号: 昭和37(あ)2864 / 裁判年月日: 昭和38年4月30日 / 結論: 棄却
自動三輪車の運転者が、前方注視業務を怠つた過失により、道路上において歩行者に衝突し、同人を附近用水路に顛落させて頭部打撲挫創等の重傷(約三時間後に死亡)を負わせた場合、直ちに車の運転を停止して近所の人に援助を求め、同人等と協力して被害者を用水路より道路上に引き上げたが、その事故の重大であることに気づいて現場より逃れよう…