道路交通法一一七条の罪の成立に必要な事実の認識は、必ずしも確定的な認識であることを要せず、未必的な認識でも足りる。
道路交通法一一七条の罪の成立に必要な事実の認識の程度
道路交通法117条,道路交通法72条1項
判旨
道路交通法117条に規定される救護義務違反(いわゆるひき逃げ)の罪の成立には、人身事故が発生したこと等の事実について確定的な認識は不要であり、未必的な認識があれば足りる。
問題の所在(論点)
道路交通法117条の救護義務違反罪が成立するためには、人身事故が発生した事実について確定的な認識が必要か、それとも未必的な認識で足りるか。
規範
道路交通法117条の罪の成立に必要な事実の認識(故意)は、必ずしも確定的な認識であることを要せず、未必的な認識をもって足りると解される。
重要事実
被告人が運転中に交通事故を起こした際、負傷者が発生した事実について確定的な認識を有していたか、あるいはその可能性を認識しつつ容認していたか(未必の故意の有無)が争われた事案。具体的な事故の状況や態様などの詳細な事実は、本判決文からは不明である。
あてはめ
事件番号: 昭和40(あ)2800 / 裁判年月日: 昭和41年6月10日 / 結論: 棄却
交通事故の場合に、操縦者等にいわゆる救護報告義務を負わせる前提となる当該事故発生の認識は未必的なものを以て足りる(昭和三七年(あ)第一六九〇号、同四〇年一〇月二七日大法廷判決、集一九巻七号七七三頁参照)。
道路交通法117条の罪の成否を判断するにあたり、原審は未必的な認識で足りると判断した。最高裁もこの判断を相当とし、被告人が事故の発生や負傷者の存在を確実なものとして認識していなくとも、その可能性を認識しながら救護措置を講じずに立ち去ったのであれば、同条の故意を認めることができるとした。
結論
道路交通法117条の罪の成立には未必的な認識で足りるため、被告人の上告を棄却し、未必の故意による救護義務違反の成立を認めた原判決を維持した。
実務上の射程
道路交通法117条(救護義務・報告義務違反)の故意の有無が問題となる実務・試験問題において、犯行時に「人が死傷したかもしれない」という程度の認識(未必の故意)があれば足りることを示す際、本判旨を規範として引用する。
事件番号: 昭和44(あ)1811 / 裁判年月日: 昭和44年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】車両等を人の身体に直接または間接に接触・衝突させる暴行罪の成立において、その認識は確定的なものであることを要せず、未必的な認識があれば足りる。 第1 事案の概要:被告人が自己の運転する車両等を人の身体に直接または間接に接触もしくは衝突させた事案において、被告人に暴行の故意があったかどうかが争点とな…
事件番号: 昭和37(あ)2816 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
一 業務上過失致死傷罪にいわゆる業務につき、それが社会生活上の地位に基づきなされることを要しないとの原判示は相当でないが、原判決は被告人が自動車の運転を反覆断続して行なつていた事実を認定しているところ、右事実はとりもなおさず社会生活上の地位にほかならないから、結局原判決の右法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼさない。 二 …
事件番号: 昭和44(あ)450 / 裁判年月日: 昭和45年7月28日 / 結論: 棄却
一 道路交通法一一九条一項一〇号は、憲法三八条一項に違反しない。 二 道路交通法一一九条一項一〇号の罪の成立に必要な事実の認識は、必ずしも確定的な認識であることを要せず、未必的な認識でも足りる。
事件番号: 昭和37(あ)1690 / 裁判年月日: 昭和40年10月27日 / 結論: その他
道路交通取締法第二四条第一項、同法施行令第六七条所定の救護等の措置義務又は報告義務に違反するものとして、操縦者等に対し刑事責任を負わしめるのは、被害者の殺傷の事実又は物の損壊の事実が発生し、しかも操縦者等がこれらの事実を未必的にしろ認識した場合に限られるものと解するのを相当とする。