判旨
車両等を人の身体に直接または間接に接触・衝突させる暴行罪の成立において、その認識は確定的なものであることを要せず、未必的な認識があれば足りる。
問題の所在(論点)
暴行罪の成立において、行為者が自己の運転する車両等を人の身体に接触・衝突させることについて、確定的な認識を要するか、それとも未必的な認識で足りるか。
規範
暴行罪(刑法208条)の成立に必要な故意については、自己の行為が人の身体に対し直接または間接に接触・衝突する結果を生じさせることについての確定的認識までは不要であり、そのような結果が発生するかもしれないという未必的な認識があれば足りる。
重要事実
被告人が自己の運転する車両等を人の身体に直接または間接に接触もしくは衝突させた事案において、被告人に暴行の故意があったかどうかが争点となった。弁護人は、確定的認識が必要である旨の判例違反を主張して上告した。
あてはめ
最高裁は、所論が引用する大法廷判例について、車両等を人の身体に接触・衝突させることに関して「確定的認識を必要とするか未必的なもので足りるかについては何ら判示していない」と指摘した。その上で、未必的な認識があれば足りるという前提に基づき、原判決の判断に憲法違反や判例違反はないものとした。
結論
車両等を用いた暴行罪の成立には、確定的認識は不要であり、未必的な認識があれば足りる。
実務上の射程
危険運転致死傷罪や暴行罪の故意の認定において、殺意まではないが「当たっても構わない」という心理状態での車両接近行為を処罰する際の根拠となる。答案上は、未必の故意の一般論を暴行罪に適用する場面で使用する。
事件番号: 昭和45(あ)2031 / 裁判年月日: 昭和47年3月28日 / 結論: 棄却
道路交通法一一七条の罪の成立に必要な事実の認識は、必ずしも確定的な認識であることを要せず、未必的な認識でも足りる。
事件番号: 昭和40(あ)2800 / 裁判年月日: 昭和41年6月10日 / 結論: 棄却
交通事故の場合に、操縦者等にいわゆる救護報告義務を負わせる前提となる当該事故発生の認識は未必的なものを以て足りる(昭和三七年(あ)第一六九〇号、同四〇年一〇月二七日大法廷判決、集一九巻七号七七三頁参照)。
事件番号: 昭和46(あ)470 / 裁判年月日: 昭和46年12月23日 / 結論: 棄却
道路交通法一一七条の二第一号(昭和四五年法律第八六号による改正前のもの)は規定する酒酔い運転の罪の犯意としては、行為者において、飲酒によりアルコールを自己の身体は保有しながら車両等の運転をすることの認識があれば足り、そのアルコールの影響により正常な運転ができないおそれのある状態に達していることまで認識している必要はない…
事件番号: 昭和44(あ)450 / 裁判年月日: 昭和45年7月28日 / 結論: 棄却
一 道路交通法一一九条一項一〇号は、憲法三八条一項に違反しない。 二 道路交通法一一九条一項一〇号の罪の成立に必要な事実の認識は、必ずしも確定的な認識であることを要せず、未必的な認識でも足りる。
事件番号: 昭和37(あ)2816 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
一 業務上過失致死傷罪にいわゆる業務につき、それが社会生活上の地位に基づきなされることを要しないとの原判示は相当でないが、原判決は被告人が自動車の運転を反覆断続して行なつていた事実を認定しているところ、右事実はとりもなおさず社会生活上の地位にほかならないから、結局原判決の右法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼさない。 二 …