道路交通法一一七条の二第一号(昭和四五年法律第八六号による改正前のもの)は規定する酒酔い運転の罪の犯意としては、行為者において、飲酒によりアルコールを自己の身体は保有しながら車両等の運転をすることの認識があれば足り、そのアルコールの影響により正常な運転ができないおそれのある状態に達していることまで認識している必要はない。
道路交通法一一七条の二第一号(昭和四五年法律第八六号による改正前のもの)に規定する酒酔い運転の罪の犯意
道路交通法(昭和45年法律86号による改正前のもの)65条,道路交通法(昭和45年法律86号による改正前のもの)117条の2第1号
判旨
道路交通法上の酒酔い運転罪における故意は、飲酒によりアルコールを身体に保有しながら車両を運転することの認識があれば足りる。アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態であることの認識(酩酊の程度の認識)までは不要である。
問題の所在(論点)
道路交通法上の酒酔い運転罪の成立において、刑法38条1項にいう「罪を犯す意思(故意)」として、自己がアルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態にあることの認識まで必要か、それとも身体にアルコールを保有して運転することの認識で足りるか。
規範
道路交通法における酒酔い運転の罪(同法65条、117条の2第1号等)が成立するために必要な故意の内容としては、行為者において、飲酒によりアルコールを自己の身体に保有しながら車両等の運転をすることの認識があれば足りる。アルコールの影響により「正常な運転ができないおそれがある状態」に達しているかどうかは客観的に判断されるべき事項であり、行為者がこれを認識している必要はない。
重要事実
被告人は、道路交通法に規定される酒酔い運転の罪で起訴された。弁護人は、酒酔い運転の罪が成立するためには「酒に酔っているために正常な運転ができないおそれがあること」を行為者が認識している必要があると主張し、被告人がその認識を欠いていた以上、故意が認められず無罪であるとして上告した(具体的な飲酒量や運転の態様等の事実は判決文からは不明)。
事件番号: 昭和43(あ)2640 / 裁判年月日: 昭和44年3月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法上の酒酔い運転罪の成立には、呼気中のアルコール保有量のみならず、被告人の身体的・精神的状況等を総合して正常な運転ができないおそれがある状態であることの認識が必要である。 第1 事案の概要:被告人がアルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で車両を運転したとして、道路交通法…
あてはめ
酒酔い運転罪における「酒酔い」とは、アルコールの影響により車両等の正常な運転ができないおそれのある状態を指すが、これは酩酊の程度が客観的な評価において認められれば足りる。行為者が自ら「正常な運転ができない」と主観的に認識していることを要件とすれば、主観の差によって法の適用が左右され、交通安全の確保という法の目的を達し得ない。したがって、アルコールを保有して運転するという事実の認識さえあれば、その程度が客観的に正常な運転を困難にする状態に達している以上、故意を肯定すべきである。
結論
被告人に正常な運転ができないおそれがある状態であることの認識がなかったとしても、飲酒運転の認識がある以上、酒酔い運転罪の故意は認められる。本件上告は棄却される。
実務上の射程
行政取締法規における故意の対象を限定した重要な判例である。答案上では、構成要件的故意の対象となる事実に、客観的な状態(正常な運転ができないおそれ)が含まれるかを論じる際に引用する。特に、責任故意の議論を待たず、客観的構成要件に該当する事実(飲酒運転)の認識のみで故意を充足するというロジックとして活用できる。
事件番号: 昭和47(あ)1896 / 裁判年月日: 昭和49年5月29日 / 結論: 棄却
一 刑法五四条一項前段にいう一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいう。 二 酒に酔つた状態で自動車を運転中に過失により人身事故を発生させた場合における道路交通法(昭和四五年法律第八六号による改正前のもの)六五条、一一七条の…
事件番号: 昭和44(あ)1811 / 裁判年月日: 昭和44年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】車両等を人の身体に直接または間接に接触・衝突させる暴行罪の成立において、その認識は確定的なものであることを要せず、未必的な認識があれば足りる。 第1 事案の概要:被告人が自己の運転する車両等を人の身体に直接または間接に接触もしくは衝突させた事案において、被告人に暴行の故意があったかどうかが争点とな…
事件番号: 昭和43(あ)1424 / 裁判年月日: 昭和44年5月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】飲酒の影響により前方注視が困難な状態で運転を開始し事故を起こした場合、運転を回避し事故を防止すべき業務上の注意義務を怠ったものとして、業務上過失致死傷罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は飲酒後に自動車を運転したが、その際、酔いのため確実な前方注視が困難な状態となっていた。被告人はそのまま進行…
事件番号: 昭和45(あ)2031 / 裁判年月日: 昭和47年3月28日 / 結論: 棄却
道路交通法一一七条の罪の成立に必要な事実の認識は、必ずしも確定的な認識であることを要せず、未必的な認識でも足りる。