判旨
飲酒の影響により前方注視が困難な状態で運転を開始し事故を起こした場合、運転を回避し事故を防止すべき業務上の注意義務を怠ったものとして、業務上過失致死傷罪が成立する。
問題の所在(論点)
飲酒の影響により前方注視が困難な状態で運転を継続し事故を起こした場合において、道路交通法違反の要件を満たさないとしても、業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)における注意義務違反が認められるか。
規範
自動車の運転者は、飲酒の影響により正常な運転が困難な状態にある場合には、事故の発生を未然に防止するため、自動車の運転を回避すべき業務上の注意義務を負う。客観的に酒気帯び運転等の行政上の基準に達しない場合であっても、具体的状況下で安全な運転が不可能な状態であれば、当該注意義務の違反(過失)が認められる。
重要事実
被告人は飲酒後に自動車を運転したが、その際、酔いのため確実な前方注視が困難な状態となっていた。被告人はそのまま進行し、前方注視を欠いたことにより傷害事故を起こした。なお、原判決は道路交通法違反(酩酊運転・酒気帯び運転)については証拠不十分として無罪としていたが、業務上過失傷害罪については有罪としていた。
あてはめ
被告人は運転開始前の飲酒により、酔いのために確実な前方注視が困難な状態に陥っていた。このような状態で運転を継続すれば事故を惹起するおそれがあることは予見可能であり、事故発生を未然に防止するために運転を控えるべき結果回避義務が認められる。被告人がこの義務に反して漫然と運転を継続し、前方注視を欠いて事故を起こした以上、業務上の注意義務を怠った過失があるといえる。原判決に理由の齟齬があるとしても、過失の認定自体は相当である。
結論
被告人には運転を回避すべき業務上の注意義務違反が認められ、業務上過失傷害罪が成立する。
事件番号: 昭和43(あ)2640 / 裁判年月日: 昭和44年3月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法上の酒酔い運転罪の成立には、呼気中のアルコール保有量のみならず、被告人の身体的・精神的状況等を総合して正常な運転ができないおそれがある状態であることの認識が必要である。 第1 事案の概要:被告人がアルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で車両を運転したとして、道路交通法…
実務上の射程
行政法規(道交法)上の数値基準や定型的な禁止態様に該当しない場合であっても、具体的過失の認定において、飲酒による生理的影響を結果回避義務(運転停止義務)の根拠として構成できることを示す。過失犯の基本構造である予見可能性に基づく結果回避義務の具体化として活用できる。
事件番号: 昭和45(あ)2554 / 裁判年月日: 昭和46年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と業務上過失傷害罪との罪数関係につき、前者の実行行為たる自動車の運転行為自体が後者の注意義務違反(過失)の内容をなす場合には、刑法54条1項前段により観念的競合と解すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、飲酒により正常な運転ができないおそれがある状態で普通乗用自動車を運転した(酒…
事件番号: 昭和46(あ)470 / 裁判年月日: 昭和46年12月23日 / 結論: 棄却
道路交通法一一七条の二第一号(昭和四五年法律第八六号による改正前のもの)は規定する酒酔い運転の罪の犯意としては、行為者において、飲酒によりアルコールを自己の身体は保有しながら車両等の運転をすることの認識があれば足り、そのアルコールの影響により正常な運転ができないおそれのある状態に達していることまで認識している必要はない…
事件番号: 昭和48(あ)2132 / 裁判年月日: 昭和49年1月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪は、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合に該当し、刑法54条1項前段により観念的競合の関係にある。被告人に不利益な変更を求める上告趣意は不適法として退けられる。 第1 事案の概要:被告人は酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転走行中に注意義務を怠っ…