判旨
道路交通法上の酒酔い運転罪の成立には、呼気中のアルコール保有量のみならず、被告人の身体的・精神的状況等を総合して正常な運転ができないおそれがある状態であることの認識が必要である。
問題の所在(論点)
酒酔い運転罪の成否において、客観的なアルコール保有量のみで「正常な運転ができないおそれがある状態」を判断してよいか。また、被告人にその状態の認識(故意)が必要か。
規範
道路交通法における酒酔い運転の罪(同法117条の2第1号、65条1項)が成立するためには、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態にあることの認識(故意)を要する。
重要事実
被告人がアルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で車両を運転したとして、道路交通法違反で起訴された。弁護人は、原判決が呼気中のアルコール保有量のみをもって当該状態を判断した点に判例違反があること、および被告人に当該状態の認識があったことを示す証拠が皆無であることを理由に上告した。
あてはめ
最高裁は、原判決が呼気中のアルコール保有量のみで判断したわけではないことを指摘した。その上で、第一審が掲げる証拠(判決文からは具体的証拠内容は不明)によれば、被告人が運転当時、酒酔いのために正常な運転ができないおそれがある状態であることを認識していたことが明らかであると判断した。これにより、主観的態様としての故意が認められるとした。
結論
被告人に正常な運転ができないおそれがある状態の認識があったと認められるため、酒酔い運転罪が成立する。
実務上の射程
酒酔い運転の故意については、単に「酒を飲んだ」という認識だけでなく、それによって「正常な運転ができないおそれがある状態」に至っていることの認識まで必要であることを示唆する。実務上は、歩行状態や言動などの外形的事実からこの認識を推認することになる。
事件番号: 昭和46(あ)470 / 裁判年月日: 昭和46年12月23日 / 結論: 棄却
道路交通法一一七条の二第一号(昭和四五年法律第八六号による改正前のもの)は規定する酒酔い運転の罪の犯意としては、行為者において、飲酒によりアルコールを自己の身体は保有しながら車両等の運転をすることの認識があれば足り、そのアルコールの影響により正常な運転ができないおそれのある状態に達していることまで認識している必要はない…
事件番号: 昭和43(あ)1424 / 裁判年月日: 昭和44年5月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】飲酒の影響により前方注視が困難な状態で運転を開始し事故を起こした場合、運転を回避し事故を防止すべき業務上の注意義務を怠ったものとして、業務上過失致死傷罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は飲酒後に自動車を運転したが、その際、酔いのため確実な前方注視が困難な状態となっていた。被告人はそのまま進行…
事件番号: 昭和45(あ)2554 / 裁判年月日: 昭和46年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と業務上過失傷害罪との罪数関係につき、前者の実行行為たる自動車の運転行為自体が後者の注意義務違反(過失)の内容をなす場合には、刑法54条1項前段により観念的競合と解すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、飲酒により正常な運転ができないおそれがある状態で普通乗用自動車を運転した(酒…
事件番号: 昭和52(あ)834 / 裁判年月日: 昭和52年9月19日 / 結論: 棄却
道路交通法一一九条一項七号の二に規定する酒気帯び運転の罪の故意が成立するためには、行為者において、アルコールを自己の身体に保有しながら車両等の運転をすることの認識があれば足り、同法施行令四四条の三所定のアルコール保有量の数値まで認識している必要はない。
事件番号: 昭和48(あ)2132 / 裁判年月日: 昭和49年1月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪は、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合に該当し、刑法54条1項前段により観念的競合の関係にある。被告人に不利益な変更を求める上告趣意は不適法として退けられる。 第1 事案の概要:被告人は酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転走行中に注意義務を怠っ…