道路交通法一一九条一項七号の二に規定する酒気帯び運転の罪の故意が成立するためには、行為者において、アルコールを自己の身体に保有しながら車両等の運転をすることの認識があれば足り、同法施行令四四条の三所定のアルコール保有量の数値まで認識している必要はない。
道路交通法一一九条一項七号の二に規定する酒気帯び運転の罪の故意
刑法38条1項,道路交通法65条1項,道路交通法119条1項7号の2,道路交通法施行令44条の3
判旨
酒気帯び運転の罪(道路交通法119条1項7号の2)の故意が成立するためには、身体にアルコールを保有して車両等を運転することの認識があれば足り、法令が定める具体的な数値(呼気1リットル中の含有量等)までの認識は不要である。
問題の所在(論点)
酒気帯び運転の罪の故意が成立するために、行為者は道路交通法施行令44条の3が定める具体的なアルコール保有量の数値を認識している必要があるか。
規範
刑法38条1項にいう故意の対象は、犯罪構成要件に該当する客観的事実の認識である。酒気帯び運転の罪においては、アルコールを自己の身体に保有した状態で車両等を運転することの認識が必要かつ十分であり、政令(同法施行令44条の3)が定める具体的なアルコール保有量の数値を認識していることまでは必要とされない。
重要事実
被告人は、道路交通法119条1項7号の2に規定する酒気帯び運転の罪に問われた。被告人は、アルコールを摂取して運転した認識はあったものの、法令で禁止されている具体的な基準値(アルコール保有量)を上回っていることまでの認識はなかったと主張して、故意の不成立を争った。
事件番号: 昭和43(あ)2640 / 裁判年月日: 昭和44年3月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法上の酒酔い運転罪の成立には、呼気中のアルコール保有量のみならず、被告人の身体的・精神的状況等を総合して正常な運転ができないおそれがある状態であることの認識が必要である。 第1 事案の概要:被告人がアルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で車両を運転したとして、道路交通法…
あてはめ
道路交通法が禁止しているのは「酒気を帯びて車両等を運転すること」であり、その程度の詳細な数値は、処罰の客観的基準を明確にするためのものに過ぎない。したがって、行為者が「酒を飲んで身体にアルコールが残っている状態」であることを認識しながら運転した以上、たとえ具体的な数値が不明であっても、同罪の構成要件事実の認識があったといえる。本件において、具体的な数値を認識していないことは故意を阻却する事情にはならないと解される。
結論
酒気帯び運転の罪の故意の成立には、具体的なアルコール保有量の数値の認識は不要であるため、原判決の判断は相当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
行政取締法規における「故意」の範囲を確定させた重要判例である。答案上は、構成要件的故意の認識対象として、構成要件の核心となる事実の認識があれば足り、細かな数値的基準などは「評価の根拠となる事実」として、具体的な認識を要しないと説明する際の論拠となる。
事件番号: 昭和46(あ)470 / 裁判年月日: 昭和46年12月23日 / 結論: 棄却
道路交通法一一七条の二第一号(昭和四五年法律第八六号による改正前のもの)は規定する酒酔い運転の罪の犯意としては、行為者において、飲酒によりアルコールを自己の身体は保有しながら車両等の運転をすることの認識があれば足り、そのアルコールの影響により正常な運転ができないおそれのある状態に達していることまで認識している必要はない…
事件番号: 昭和44(あ)450 / 裁判年月日: 昭和45年7月28日 / 結論: 棄却
一 道路交通法一一九条一項一〇号は、憲法三八条一項に違反しない。 二 道路交通法一一九条一項一〇号の罪の成立に必要な事実の認識は、必ずしも確定的な認識であることを要せず、未必的な認識でも足りる。
事件番号: 昭和43(あ)1424 / 裁判年月日: 昭和44年5月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】飲酒の影響により前方注視が困難な状態で運転を開始し事故を起こした場合、運転を回避し事故を防止すべき業務上の注意義務を怠ったものとして、業務上過失致死傷罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は飲酒後に自動車を運転したが、その際、酔いのため確実な前方注視が困難な状態となっていた。被告人はそのまま進行…
事件番号: 昭和48(あ)2132 / 裁判年月日: 昭和49年1月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪は、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合に該当し、刑法54条1項前段により観念的競合の関係にある。被告人に不利益な変更を求める上告趣意は不適法として退けられる。 第1 事案の概要:被告人は酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転走行中に注意義務を怠っ…