一 道路交通法一一九条一項一〇号は、憲法三八条一項に違反しない。 二 道路交通法一一九条一項一〇号の罪の成立に必要な事実の認識は、必ずしも確定的な認識であることを要せず、未必的な認識でも足りる。
一 道路交通法一一九条一項一〇号の合憲性 二 道路交通法一一九条一項一〇号の罪の成立に必要な事実の認識の程度
道路交通法72条1項,道路交通法119条1項10号,憲法38条1項
判旨
道路交通法119条1項10号(報告義務違反等)の罪の成立には、自己の行為によって人死傷等の事故が発生したことにつき、必ずしも確定的な認識であることを要せず、未必的な認識があれば足りる。
問題の所在(論点)
道路交通法119条1項10号の罪が成立するために、事故発生の事実について「確定的な認識」が必要か、あるいは「未必的な認識」で足りるか。
規範
特定の犯罪の成立に必要な事実の認識(故意)については、特段の定めがない限り、必ずしも当該事実が発生したことの確定的な認識であることを要せず、事実が発生する可能性があることを認識しつつ、それを容認する「未必的な認識」があれば足りるものと解すべきである。
重要事実
上告人は、道路交通法119条1項10号の罪(事故発生時の報告義務違反等)に問われたが、事故の発生に関する事実の認識が不十分であったとして、憲法31条(適正手続)や憲法38条1項(自己負罪拒否特権)に違反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和40(あ)2800 / 裁判年月日: 昭和41年6月10日 / 結論: 棄却
交通事故の場合に、操縦者等にいわゆる救護報告義務を負わせる前提となる当該事故発生の認識は未必的なものを以て足りる(昭和三七年(あ)第一六九〇号、同四〇年一〇月二七日大法廷判決、集一九巻七号七七三頁参照)。
あてはめ
道路交通法上の報告義務等は、道路交通の安全を確保するために課されている。同法119条1項10号の罪の成立に関し、上告人は認識の不備を主張するが、刑法上の故意の一般原則に照らせば、事故が発生したかもしれないという未必的な認識があれば義務履行の前提となる認識として十分である。本件においても、確定的な認識までを要求せずとも、未必的な認識があれば構成要件的故意を肯定できると解される。
結論
道路交通法119条1項10号の罪の成立には未必的な認識で足り、上告を棄却する。
実務上の射程
行政取締法規における故意の程度についても、原則として刑法総論の故意概念が適用され、未必の故意で足りることを示した。交通事故時の救護・報告義務違反(ひき逃げ等)の事案において、被告人が『事故に気付かなかった』と弁解する場合、当時の状況から事故の可能性を認識し得たと判断されれば、本判例を根拠に故意を肯定する論理構成が可能となる。
事件番号: 昭和45(あ)2031 / 裁判年月日: 昭和47年3月28日 / 結論: 棄却
道路交通法一一七条の罪の成立に必要な事実の認識は、必ずしも確定的な認識であることを要せず、未必的な認識でも足りる。
事件番号: 昭和37(あ)1690 / 裁判年月日: 昭和40年10月27日 / 結論: その他
道路交通取締法第二四条第一項、同法施行令第六七条所定の救護等の措置義務又は報告義務に違反するものとして、操縦者等に対し刑事責任を負わしめるのは、被害者の殺傷の事実又は物の損壊の事実が発生し、しかも操縦者等がこれらの事実を未必的にしろ認識した場合に限られるものと解するのを相当とする。
事件番号: 昭和44(あ)1811 / 裁判年月日: 昭和44年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】車両等を人の身体に直接または間接に接触・衝突させる暴行罪の成立において、その認識は確定的なものであることを要せず、未必的な認識があれば足りる。 第1 事案の概要:被告人が自己の運転する車両等を人の身体に直接または間接に接触もしくは衝突させた事案において、被告人に暴行の故意があったかどうかが争点とな…
事件番号: 昭和47(あ)1600 / 裁判年月日: 昭和48年2月15日 / 結論: 棄却
道路交通法七二条一項後段、一一九条一項一〇号の規定が憲法三八条一項に違反するものでないことは等裁判所大法廷判決(昭和三五年(あ)第六三六号同三七年五月二日言渡、刑集一六巻五号四九五頁)の趣旨に徴し明らかである。