道路交通取締法第二四条第一項、同法施行令第六七条所定の救護等の措置義務又は報告義務に違反するものとして、操縦者等に対し刑事責任を負わしめるのは、被害者の殺傷の事実又は物の損壊の事実が発生し、しかも操縦者等がこれらの事実を未必的にしろ認識した場合に限られるものと解するのを相当とする。
交通事故の場合のいわゆる救護、報告業務と操縦者等における被害者の殺傷の事実又は物の損壊の事実の認識。
道路交通取締法24条1項,同法施行令67条
判旨
交通事故における救護義務及び報告義務の成立には、単に接触の認識があるだけでは足りず、人の殺傷や物の損壊という結果が発生したことについて、未必的なものであっても認識していることを要する。
問題の所在(論点)
交通事故の運転者に課される救護義務及び報告義務(道路交通法72条1項前段・後段)の成立に関し、人の殺傷又は物の損壊の事実についての認識(故意)が必要か、あるいは単に身体等への接触の認識があれば足りるのか。
規範
道路交通法(旧道路交通取締法)が定める救護義務及び報告義務は、事故現場の応急措置による道路の危険防止や交通安全の確保を目的とするものである。したがって、これら義務違反の刑事責任を問うためには、救護等の対象となるべき「人の殺傷」又は「物の損壊」の事実が発生し、かつ、運転者がこれらの事実を未必的にしろ認識していたことを要する。
重要事実
被告人は大型貨物自動車を運転中、その車体左側を原動機付自転車に接触させ、被害者の右足下腿部を自車の左後輪でひく交通事故を起こした。被告人は接触後、そのまま15メートルから16メートルほど進行した地点で後方を振り向き、被害者が路上に転倒し、付近に自転車が放り出されている状況を確認できる状態にあった。しかし、被告人は直ちに必要な措置を講じることなく、そのまま運転を継続した。
事件番号: 昭和40(あ)2800 / 裁判年月日: 昭和41年6月10日 / 結論: 棄却
交通事故の場合に、操縦者等にいわゆる救護報告義務を負わせる前提となる当該事故発生の認識は未必的なものを以て足りる(昭和三七年(あ)第一六九〇号、同四〇年一〇月二七日大法廷判決、集一九巻七号七七三頁参照)。
あてはめ
本件において、被告人は自己の運転する車両と被害車両の接触および被害者の轢過を認識していただけでなく、事故直後に後方を振り向いた際、被害者が路上に転倒し自転車が放り出されている状況を視認できたと認められる。このような客観的状況に照らせば、被告人は単なる接触の認識に留まらず、被害者の身体に傷害が発生した事実について、少なくとも未必的な認識を有していたと評価するのが相当である。
結論
救護義務及び報告義務の成立には死傷等の事実の認識を要するが、本件被告人にはその未必的認識が認められるため、同義務違反の罪が成立する。
実務上の射程
救護義務等の主観的要件(故意)を明確にした大法廷判決であり、現行道路交通法72条の解釈においても不可欠な規範である。答案上は、単に「事故の認識」と書くのではなく、救護・報告の対象となる「死傷等の事実」の認識が必要であることを明示した上で、現場の視認状況等の具体的事実から未必的故意を認定する流れで用いる。
事件番号: 昭和45(あ)2031 / 裁判年月日: 昭和47年3月28日 / 結論: 棄却
道路交通法一一七条の罪の成立に必要な事実の認識は、必ずしも確定的な認識であることを要せず、未必的な認識でも足りる。
事件番号: 昭和44(あ)450 / 裁判年月日: 昭和45年7月28日 / 結論: 棄却
一 道路交通法一一九条一項一〇号は、憲法三八条一項に違反しない。 二 道路交通法一一九条一項一〇号の罪の成立に必要な事実の認識は、必ずしも確定的な認識であることを要せず、未必的な認識でも足りる。
事件番号: 昭和37(あ)1690 / 裁判年月日: 昭和40年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証人が体験した事実そのもの、または体験した事実に基づいて推測した事項に関する供述は、単なる意見の表明ではなく、証拠能力を有する。 第1 事案の概要:刑事被告事件において、被害者Aが証人として供述を行った。この供述について、弁護人は「証人の意見の表示にすぎない部分を証拠として採用した」として、判例違…
事件番号: 昭和37(あ)2864 / 裁判年月日: 昭和38年4月30日 / 結論: 棄却
自動三輪車の運転者が、前方注視業務を怠つた過失により、道路上において歩行者に衝突し、同人を附近用水路に顛落させて頭部打撲挫創等の重傷(約三時間後に死亡)を負わせた場合、直ちに車の運転を停止して近所の人に援助を求め、同人等と協力して被害者を用水路より道路上に引き上げたが、その事故の重大であることに気づいて現場より逃れよう…