交通事故の場合に、操縦者等にいわゆる救護報告義務を負わせる前提となる当該事故発生の認識は未必的なものを以て足りる(昭和三七年(あ)第一六九〇号、同四〇年一〇月二七日大法廷判決、集一九巻七号七七三頁参照)。
交通事故の場合のいわゆる救護報告義務と操縦者等の当該事故発生の認識
道路交通法72条
判旨
交通事故における救護義務及び報告義務の前提となる事故発生の認識については、確定的な認識であることを要せず、未必的な認識があれば足りる。
問題の所在(論点)
道路交通法に規定される救護義務や報告義務が課されるために、運転者は交通事故の発生をどの程度認識している必要があるか。
規範
道路交通法上の救護義務・報告義務の発生要件としての事故発生の認識は、確定的なものに限られず、未必的な認識(自己の運転により死傷者等が生じたかもしれないという認識)があれば足りる。
重要事実
被告人が交通事故を起こした際、その供述調書や供述書の翻訳に誤訳があったと主張し、事故発生の明確な認識がなかったとして上告した事案。弁護人は、操縦者に救護報告義務を負わせる前提となる事故の認識が不十分であった旨を主張した。
あてはめ
事件番号: 昭和45(あ)2031 / 裁判年月日: 昭和47年3月28日 / 結論: 棄却
道路交通法一一七条の罪の成立に必要な事実の認識は、必ずしも確定的な認識であることを要せず、未必的な認識でも足りる。
被告人の供述調書等の意味について弁護人が主張する通りの解釈を採ったとしても、被告人には「事故が発生したかもしれない」という未必的な認識があったと認められる。未必的な認識があれば義務発生の前提となる主観的態様として十分であるため、確定的な認識を欠いていたとしても刑責を免れることはできない。
結論
被告人に事故発生の未必的な認識が認められる以上、救護義務・報告義務違反の刑責を負う。本件上告は棄却される。
実務上の射程
道路交通法違反(ひき逃げ・当て逃げ)の主観的要件に関する重要判例である。答案上では「事故を知らなかった」という被告人の弁解に対し、未必の故意(認識)の法理を用いて義務違反を肯定する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和44(あ)450 / 裁判年月日: 昭和45年7月28日 / 結論: 棄却
一 道路交通法一一九条一項一〇号は、憲法三八条一項に違反しない。 二 道路交通法一一九条一項一〇号の罪の成立に必要な事実の認識は、必ずしも確定的な認識であることを要せず、未必的な認識でも足りる。
事件番号: 昭和44(あ)1811 / 裁判年月日: 昭和44年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】車両等を人の身体に直接または間接に接触・衝突させる暴行罪の成立において、その認識は確定的なものであることを要せず、未必的な認識があれば足りる。 第1 事案の概要:被告人が自己の運転する車両等を人の身体に直接または間接に接触もしくは衝突させた事案において、被告人に暴行の故意があったかどうかが争点とな…
事件番号: 昭和37(あ)1690 / 裁判年月日: 昭和40年10月27日 / 結論: その他
道路交通取締法第二四条第一項、同法施行令第六七条所定の救護等の措置義務又は報告義務に違反するものとして、操縦者等に対し刑事責任を負わしめるのは、被害者の殺傷の事実又は物の損壊の事実が発生し、しかも操縦者等がこれらの事実を未必的にしろ認識した場合に限られるものと解するのを相当とする。
事件番号: 昭和46(あ)470 / 裁判年月日: 昭和46年12月23日 / 結論: 棄却
道路交通法一一七条の二第一号(昭和四五年法律第八六号による改正前のもの)は規定する酒酔い運転の罪の犯意としては、行為者において、飲酒によりアルコールを自己の身体は保有しながら車両等の運転をすることの認識があれば足り、そのアルコールの影響により正常な運転ができないおそれのある状態に達していることまで認識している必要はない…