刑訴法四一一条二号により破棄された事例
刑訴法411条2号
判旨
業務上過失致死罪における過失の程度の判断に際し、後方確認の困難性や、被告人が講じた一定の回避措置、被害者側の動静、示談の成立等の諸般の情状を十分に考慮せず、過失が甚だ重大であると断定した原判決は、量刑不当として破棄を免れない。
問題の所在(論点)
刑法211条前段の業務上過失致死罪の量刑において、ミラーによる後方確認の容易性を前提に「過失が甚だ重大」と断定した原判断の妥当性、および執行猶予の可否。
規範
業務上の注意義務違反(刑法211条前段)の有無および過失の程度の判断にあたっては、事故当時の具体的な視界状況(ミラーの死角等)に基づく回避可能性の程度、被告人が実際に講じた事故防止措置の内容、被害者の予見可能性、および示談状況等の犯行後の情状を総合的に考慮して判断すべきである。
重要事実
被告人は普通貨物自動車を狭隘な道路で後退させる際、後方の歩行者Aに気づかず衝突・轢過し死亡させた。第一審および原審は、ミラー等で後方確認が容易であったのに梯子を注視し歩行者の確認を怠ったとして、過失が甚だ重大であると判断し禁錮8月の実刑を言い渡した。しかし、実際にはサイドミラーに死角があり、ルームミラーでも被害者の身長(約140cm)や腰の曲がり具合から視認が困難な場合があった。また被告人は後退開始時に歩行者がいないことを確認し、バックブザーを鳴らし、窓から顔を出して右後方を確認する等の一定の注意を払っていた。
あてはめ
まず、構造上の死角や被害者の低身長から、ミラーによる確認が容易であったとは断定できず、回避可能性の程度に関する原審の評価には誤りがある。次に、被告人は後退前に歩行者の不在を確認し、バックブザーや目視による部分的な確認を行っており、安全確認に全く無関心ではなかった。これに加え、被害者遺族との示談成立、罰金前科1犯のみという経歴、免許取消処分、および同種事故の量刑傾向を考慮すれば、本件は刑の執行を猶予すべき事案である。したがって、過失を決定的に重視して実刑とした原判決の量刑は、甚だしく重きに失する。
結論
原判決及び第一審判決を破棄。被告人を禁錮8月に処し、3年間の執行猶予を付する。
実務上の射程
過失致死傷罪の答案において、注意義務違反の「程度」を論じる際の考慮要素として活用できる。特に、形式的な確認義務違反だけでなく、ミラーの死角等の物理的限界や、被告人が実際に行った不完全ながらも一定の注意行動が、量刑上の過失評価を減じさせる事情になり得ることを示している。
事件番号: 昭和31(あ)1187 / 裁判年月日: 昭和33年9月8日 / 結論: 棄却
乗合自動車の運転者が、中学校の正門前附近道路を進行する場合には、前方ならびにその左右を警戒して校門出入者の有無に注意し、その出入者と衝突のおそれがあるときは何時でも停車することができる程度に速度を減少する等事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務がある。
事件番号: 昭和47(あ)682 / 裁判年月日: 昭和47年11月16日 / 結論: 破棄差戻
交差点を右折するため、中央線に沿つて適式な右折合図をしながら右折を始めようとする車両の運転者としては、道路交通法(昭和四六年法律第九八号による改正前のもの)三四条二項に違反して交差点手前約六米の地点から右折を開始したとしても、それが、右規定に従つた右折方法に比し、後続車との衝突の危険を一層増大させるものでない場合には、…