交差点で左折しようとする自動車の運転者は、進入しようとする道路の幅員が狭く、かつ鋭角をなしているため、あらかじめ道路左端に寄つて進行することが困難な場合にも、道路交通法規所定の左折の合図をし、かつ、できる限り道路左側に寄つて徐行をし、更に後写鏡を見て後続車両の有無を確認したうえ左折を開始すれば足り、それ以上の方法を講じて、左後方のいわゆる死角にある他車両の有無を確認するまでの義務はない。
交差点で左折しようとする自動車運転者の後続車両に対する注意義務の限度
刑法211条(昭和43年法律61号による改正前のもの),道路交通法34条1項,道路交通法53条,道路交通法施行令21条
判旨
車両の左折に際し、道路交通法規に従った合図と徐行を行い、後写鏡による確認を尽くしたならば、技術的に左端に寄せることが困難な状況であっても、死角にある車両を確認すべき義務まではない。したがって、死角から突入した車両との衝突について、運転者の業務上過失致死傷罪の成立は否定される。
問題の所在(論点)
道路の形状から左端に寄せることが困難で、自車と左端との間に後続車が進入するおそれがある場合、運転者は後写鏡による確認に加え、死角をも確認すべき業務上の注意義務を負うか。刑法211条前段の過失の有無が問題となる。
規範
業務上過失致死傷罪における注意義務の範囲について、道路交通法規が定める左折の合図・できる限りの左寄せ・徐行を実施し、かつ後写鏡(バックミラー)で後続車の有無を確認して左折を開始した場合には、特段の事情がない限り、運転者としての注意義務を尽くしたものと解する。運転席を離れて窓から首を出すなど、後写鏡では確認できない死角にある車両の有無まで確認すべき高度な義務は課されない。
重要事実
被告人は普通貨物自動車を運転中、鋭角で狭い町道へ左折進入しようとした。交差点の約30メートル手前から合図をして徐行したが、道路形状から技術的に左端に寄せきれず、車体左側と道路端との間に約2メートルの間隔が生じた。被告人は赤信号で一時停止後、青信号で発信の際、後写鏡で確認しただけで左折を開始した。その際、後方の死角から被告人車の左側をすり抜けて直進しようとした自動二輪車と接触し、被害者を死亡させた。
あてはめ
被告人は道路交通法規に従い、30メートル手前からの合図および徐行を励行している。また、技術的に困難な中、できる限り道路左側に寄せて進行し、左折開始前には後写鏡で後続車両の有無を確認したといえる。本件衝突は後写鏡の視界外である死角から急に先行車の左側に進入した車両との間で発生したものである。このような場合、通常の運転者に期待される確認手段を超えて、運転席を離れたり窓から首を出してまで死角を確認することを求めるのは、社会通念上相当な注意義務の範囲を逸脱している。したがって、被告人に過失は認められない。
結論
被告人は業務上の注意義務を尽くしており、過失は認められないため、業務上過失致死罪は成立しない。被告人は無罪である。
実務上の射程
交通過失事案における「信頼の原則」の法理にも通ずる判断である。法規を遵守し、一般的な確認手段(ミラー)を尽くした運転者に対し、死角からの不意打ち的な介入まで予見・回避すべき義務を否定した。答案上は、過失の具体的予見可能性・回避可能性を論じる際、道路交通法規の遵守状況を前提として、期待される注意義務の限界(死角確認の要否)を判断する基準として活用できる。
事件番号: 昭和44(あ)1833 / 裁判年月日: 昭和45年9月24日 / 結論: 破棄差戻
右折しようとする車両の運転者は、その時の道路および交通の状態その他の具体的状況に応じた適切な右折準備態勢に入つたのちは、特段の事情がない限り、後方を同一方向に進行する車両があつても、その運転者において、交通法規の諸規定に従い、追突等の事故を回避するよう正しい運転をするであろうことを期待して運転すれば足り、それ以上に、違…