本件被告事件につき、第一審の有罪判決が言い渡され、被告人から控訴の申立をなし、第一審の大分地裁日田支部から原審の福岡高等裁判所え一件記録が送付せられる迄二年五ケ月以上を経過していること、その遅延した理由が第一審担当事務官の過失によるものであることは所論のとおりであるが右の如き事情で裁判の迅速を欠いたとしても、これにより原判決を破棄する理由にならないことは当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一〇七一号、同年一二月二二日大法廷判決)とするところであり、論旨は理由がない。
迅速を欠いた裁判と破棄の理由。
憲法37条1項,刑訴法410条
判旨
第一審判決から控訴審への記録送付に約2年5ヶ月を要し、裁判の迅速を欠いた事情がある場合でも、当然には判決の破棄事由とはならない。
問題の所在(論点)
裁判所の事務的な過失により訴訟手続が著しく遅延した場合、憲法37条1項(迅速な裁判)との関係で、原判決の破棄事由となるか。
規範
憲法37条1項が保障する「迅速な裁判」を受ける権利の侵害が問題となる場合であっても、訴訟手続の遅延という事実のみをもって、直ちに原判決を破棄すべき理由にはならない。
重要事実
被告人が第一審で有罪判決を受け控訴を申し立てた際、第一審裁判所の担当事務官の過失により、一件記録が控訴審へ送付されるまでに2年5ヶ月以上を要した。被告人は、この遅延が裁判の迅速を欠くものであり、憲法違反および刑事訴訟法違反であるとして原判決の破棄を求めた。
事件番号: 昭和25(あ)3181 / 裁判年月日: 昭和27年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判が迅速を欠き憲法37条1項に違反する場合であっても、それが判決に影響を及ぼさないことが明らかであれば、原判決の破棄理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人AおよびBが上告した事案において、被告人Aの弁護人は、裁判が迅速を欠いたことが憲法37条1項に違反する旨を主張して原判決の破棄を求めた。…
あてはめ
本件では、記録送付の遅延が裁判所側の過失によるものであることは認められる。しかし、大法廷判例の趣旨に照らせば、このような事情により裁判の迅速が欠かれたとしても、それだけで有罪判決そのものを覆す理由にはならない。また、被告人が主張する無罪部分の誤記については、既に検察官の控訴がなく確定している事項であり、本件上告審の審判対象には含まれない。
結論
本件の遅延は原判決を破棄する理由にはならず、上告を棄却する。
実務上の射程
「迅速な裁判」の侵害を理由に免訴を認めた高田事件判決(最大法判昭47.12.20)以前の判断であり、本判決の射程は事務的な過失による一時的な停滞に限定して理解すべきである。現在は、異常な遅延により憲法の保障する目的が損なわれた場合には免訴等の救済があり得るが、単なる事務過失による数年程度の遅延では直ちに影響しないことを示す実例として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)2689 / 裁判年月日: 昭和28年11月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判の迅速(憲法37条1項)を欠いたとしても、それが直ちに判決に影響を及ぼす憲法違反にはならない。また、累犯加重や被告人への訴訟費用負担は、憲法39条や37条2項に反しない。 第1 事案の概要:被告人は第一審判決後、控訴審を経て上告。弁護人は、(1)原審の審理が迅速を欠き憲法37条1項に違反するこ…
事件番号: 昭和48(あ)1406 / 裁判年月日: 昭和48年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する裁判の迅速を欠いたといえるか否かは、訴訟の経過に照らして審判が不当に遅延したといえるかどうかによって判断される。本件では、訴訟経過に鑑み、第1審及び原審の審判が迅速を欠いたとは認められず、憲法違反には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が第1審及び原審の審判において、憲法…