所論は、原審訴訟記録の表紙に「報告事件」と朱書されていることは、憲法七六条三項、三二条、三一条に違反すると主張するが、かかることは下級審裁判官に対し何ら審理上の圧力を加えるものではないから、所論違憲の主張は結局すべて前提を欠くことに帰し、採用できない。(なお、右朱書がなされるに至つたのは、昭和三六年一月二三日附最高裁判所事務総長通達により、「刑事事件の事件報告に関する通達」が改正されたことに基くのであつて、司法行政事務処理上の参考資料を得るために外ならず、裁判に対し何等の圧力を加えるものでない。)
訴訟記録の表紙に「報告事件」と朱書することの可否。
憲法76条3項,昭和32年12月26日附刑188号最高裁判所事務総長通達「刑事事件の事件報告について」,昭和36年1月23日附刑1第5号最高裁判所事務総長通達「刑事事件の事件報告に関する通達の改正について」
判旨
裁判記録の表紙に「報告事件」と朱書することは、司法行政上の資料収集を目的とするものであり、裁判官の職権行使に圧力を加えるものではない。したがって、かかる運用は憲法76条3項の裁判官の独立等に違反しない。
問題の所在(論点)
裁判記録の表紙に「報告事件」と表示する司法行政上の運用が、憲法76条3項の裁判官の独立、32条の裁判を受ける権利、および31条の適正手続きに違反するか。
規範
憲法76条3項の裁判官の独立に照らし、司法行政上の措置が裁判の公正を害し、あるいは裁判官の審理に不当な影響を及ぼすものであってはならない。しかし、その措置が単に司法行政事務処理上の参考資料を得ることを目的とし、裁判官に対して審理上の圧力を加える性質のものでない限り、憲法に抵触するものではない。
重要事実
刑事被告人の控訴審において、原審訴訟記録の表紙に「報告事件」との朱書がなされていた。これは、昭和36年1月の最高裁判所事務総長通達による「刑事事件の事件報告に関する通達」の改正に基づく運用であった。被告人側は、この朱書が裁判官に対する不当な圧力となり、裁判官の独立(憲法76条3項)、裁判を受ける権利(同32条)、適正手続き(同31条)に反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和36(あ)411 / 裁判年月日: 昭和37年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】交通事故の報告義務(道路交通取締法施行規則67条2項、現行法72条1項後段)において「事故の内容」の報告を課すことは、憲法38条1項の自己負罪拒否特権および憲法31条の適正手続に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、自動車を運転中に業務上の過失により事故(致死)を発生させたが、負傷者の救護や道…
あてはめ
本件における記録への朱書は、あくまで最高裁判所事務総長通達に基づき、司法行政事務処理上の参考資料を得ることを目的として行われたものである。かかる朱書がなされていることをもって、直ちに下級審裁判官に対し具体的な審理上の圧力を加えるものとは認められない。したがって、裁判の公正や裁判官の職権行使の独立性が損なわれた事実は認められず、憲法各条項に違反するとの主張は前提を欠く。
結論
本件の運用は裁判官に対し何ら審理上の圧力を加えるものではなく、憲法76条3項、32条、31条に違反しない。
実務上の射程
司法行政と司法権の行使(職権の独立)の境界を示した事例として、裁判の公正や外観上の独立性が問われる場面での論証に利用できる。もっとも、本判決は通達による一律の事務処理を肯定したにとどまり、具体的な指揮命令がなされた場合には別途検討が必要となる。
事件番号: 昭和36(あ)1015 / 裁判年月日: 昭和36年7月28日 / 結論: 棄却
所論は原審の訴訟手続が少年法第五〇条に違反し違法であることを前提として違憲をいうが、少年法第五〇条は訓示規定であつて、同条の規定に違反するところがあつてもこれを以て違法といえことはできないことは既に当裁判所の判例(昭和二四年(れ)第一二二六号、同年一二月八日第一小法廷判決、集三巻一二号一九一五頁、昭和二五年(れ)第一八…
事件番号: 昭和46(あ)1143 / 裁判年月日: 昭和46年9月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段の規定による報告義務は、自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項の供述を強制するものではないから、憲法38条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は自動車の運転中に事故を起こしたが、道路交通法72条1項後段に規定された警察官への報告義務を履行しなかった。これに対し…
事件番号: 昭和29(あ)2686 / 裁判年月日: 昭和30年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の「業務」とは、社会生活上の地位に基づき、反復継続して行われる事務をいい、本件のような車両の運転行為もこれに該当する。 第1 事案の概要:被告人が車両を運転して事故を起こし、業務上過失致死傷罪(当時の刑法211条)に問われた。被告人側は、当該運転行為が刑法上の「業務」に該当しないと主張して上…
事件番号: 昭和43(あ)2826 / 裁判年月日: 昭和44年5月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段の報告義務は憲法38条1項に違反しない。また、併合罪の加重において刑法47条但書の制限を逸脱する法令適用の誤りがあっても、宣告刑が不当でなければ原判決の破棄は要しない。 第1 事案の概要:被告人は、業務上過失致死の罪(改正前刑法211条前段)と報告義務違反の罪(道路交通法1…