判旨
刑法上の「業務」とは、社会生活上の地位に基づき、反復継続して行われる事務をいい、本件のような車両の運転行為もこれに該当する。
問題の所在(論点)
刑法211条(業務上過失致死傷罪)および同法129条2項にいう「業務」の意義、および車両の運転がこれに該当するか。
規範
刑法211条前段の「業務」とは、社会生活上の地位に基づき、反復継続して行われる事務であって、他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものをいう。
重要事実
被告人が車両を運転して事故を起こし、業務上過失致死傷罪(当時の刑法211条)に問われた。被告人側は、当該運転行為が刑法上の「業務」に該当しないと主張して上告した。
あてはめ
最高裁判所は、過去の判例(最大判大正10年10月24日等)を引用し、業務の意義を「社会生活上の地位に基づき反復継続して行われる事務」と解した。本件における被告人の車両運転行為についても、この基準に照らせば、単なる一時的な娯楽や私的な用務を超え、社会生活上の地位に基づき継続的に行われる事務としての性格を有する。したがって、過失により人を死傷させた場合には、単純過失(210条)ではなく、重い注意義務が課される業務上過失致死傷罪が成立すると判断した。
結論
被告人の運転行為は「業務」に該当し、業務上過失致死傷罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、刑法における「業務」の定義を確定させたリーディングケースである。答案上では、①社会生活上の地位、②反復継続性、③(生命身体への危殆性を伴う)事務、の3要素を明示するために用いる。特に自動車の運転については、私用・無免許であっても「事務」としての継続性があれば本罪の業務性を認めるのが実務の確立した運用である。
事件番号: 昭和30(あ)2676 / 裁判年月日: 昭和33年3月17日 / 結論: 棄却
一 本件における道路交通取締法違反(無謀操縦)の事実と業務上過失致死の事実とは、公訴事実としては別個の事実であつて、公訴事実の同一性を認むべきではない。 二 本件における道路交通取締法違反(無謀操縦)の罪と業務上過失致死罪とは別個独立の犯罪であつて、右両者の間には牽連関係ないし一所為数法の関係は存しない。
事件番号: 昭和37(あ)2816 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
一 業務上過失致死傷罪にいわゆる業務につき、それが社会生活上の地位に基づきなされることを要しないとの原判示は相当でないが、原判決は被告人が自動車の運転を反覆断続して行なつていた事実を認定しているところ、右事実はとりもなおさず社会生活上の地位にほかならないから、結局原判決の右法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼさない。 二 …
事件番号: 昭和34(あ)1778 / 裁判年月日: 昭和35年1月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失致死罪における「業務」とは、本件犯行直前にも数回にわたり自動三輪車の運転を反復継続して行っていた事実があれば肯定される。また、自白の補強証拠は犯罪構成要件たる事実全体について存在すれば足り、自白の各部分について個別に要するものではない。 第1 事案の概要:被告人が自動三輪車を運転中に過失…
事件番号: 昭和37(あ)2772 / 裁判年月日: 昭和39年1月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法211条前段の業務上過失致死傷罪は、加害者・被害者の別や運転資格の有無を問わず、業務上の必要な注意を怠って人を死傷させた者すべてに適用される。同条の適用は、法の下の平等(憲法14条)や適正手続(憲法13条)に反するものではない。 第1 事案の概要:被告人は、自動車の運転に関して業務上の必要な注…
事件番号: 昭和33(あ)1995 / 裁判年月日: 昭和34年4月23日 / 結論: 棄却
被告人は第一審判決判事のように自動車の練習並に車洗いのため十数回以上に亘つて小型自動四輪車を運転していたというのであるから予て自動車運転の業務に従事していたものと認めて毫も妨けないものである。