判旨
道路交通法72条1項後段の報告義務は憲法38条1項に違反しない。また、併合罪の加重において刑法47条但書の制限を逸脱する法令適用の誤りがあっても、宣告刑が不当でなければ原判決の破棄は要しない。
問題の所在(論点)
1. 道路交通法上の報告義務が憲法38条1項に違反するか。 2. 併合罪の処断刑の算定において、刑法47条但書の制限を逸脱した法令適用の誤りがある場合、直ちに判決を破棄すべきか。
規範
1. 道路交通法72条1項後段(報告義務)は、憲法38条1項(自己負罪拒否特権)に違反しない。 2. 併合罪の処断刑の範囲について、刑法47条本文により加重する場合であっても、同条但書により各罪について定めた刑の長期の合計額を超えてはならない。 3. 法令適用の誤りがある場合でも、宣告刑が不当に重いといえないときは、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない(刑訴法411条等の趣旨)。
重要事実
被告人は、業務上過失致死の罪(改正前刑法211条前段)と報告義務違反の罪(道路交通法119条1項10号)を犯した。第一審判決は、前者に禁錮刑、後者に懲役刑を選択した上で併合罪加重(刑法45条前段、47条本文)を行い、禁錮4年6月以下の範囲で処断した。しかし、各罪の長期の合算額は禁錮3年3月であり、第一審および控訴審は刑法47条但書の制限を看過していた。
あてはめ
1. 報告義務の合憲性については既往の判例(最大法判昭37.5.2)の趣旨に照らし合憲である。 2. 処断刑の算定について、本来の長期である3年3月を越えて4年6月とした点は、明らかな法令適用の誤りである。しかし、被告人に対して実際に宣告された刑期が、記録に現れた一切の事情を総合して不当に重いとはいえない。したがって、法令の誤りはあるものの、判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまではいえない。
結論
1. 道路交通法72条1項後段は合憲である。 2. 処断刑の上限を誤る法令適用の違憲があるが、宣告刑が不当でないため上告を棄却する。
事件番号: 昭和46(あ)1143 / 裁判年月日: 昭和46年9月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段の規定による報告義務は、自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項の供述を強制するものではないから、憲法38条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は自動車の運転中に事故を起こしたが、道路交通法72条1項後段に規定された警察官への報告義務を履行しなかった。これに対し…
実務上の射程
併合罪加重の計算ミス(47条但書違反)という重大な法令違反があっても、実質的な量刑不当がない限り、上告審での破棄事由とはならないという判断枠組みを示している。司法試験においては、罪数・量刑の計算の正確性を確認するとともに、救済の必要性(著しく正義に反するか)を検討する際の参考となる。
事件番号: 昭和49(あ)2739 / 裁判年月日: 昭和50年4月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段に規定される交通事故の報告義務は、憲法38条1項の自己に不利益な供述を強要されない権利に違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、交通事故を起こした際に道路交通法72条1項後段に基づく事故報告を行わなかった。これに対し、当該報告義務の規定が憲法38条1項(自己負罪拒否特権)…
事件番号: 昭和43(あ)2617 / 裁判年月日: 昭和44年4月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段に定められた運転者の報告義務は、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、道路交通法違反の罪に問われ、同法72条1項後段が定める交通事故の際の運転者による報告義務が憲法38条1項に違反すると主張して上告した。 第2 問題の所在(論点):道路…
事件番号: 昭和46(あ)2164 / 裁判年月日: 昭和48年2月27日 / 結論: 棄却
道路交通法七二条一項後段、一一九条一項一〇号が憲法三八条一項に違反しないことは、当裁判所昭和三七年五月二日大法廷判決(刑集一六巻五号四九五頁)の趣旨に照らして明らかである。
事件番号: 昭和36(あ)411 / 裁判年月日: 昭和37年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】交通事故の報告義務(道路交通取締法施行規則67条2項、現行法72条1項後段)において「事故の内容」の報告を課すことは、憲法38条1項の自己負罪拒否特権および憲法31条の適正手続に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、自動車を運転中に業務上の過失により事故(致死)を発生させたが、負傷者の救護や道…