道路交通法七二条一項後段、一一九条一項一〇号が憲法三八条一項に違反しないことは、当裁判所昭和三七年五月二日大法廷判決(刑集一六巻五号四九五頁)の趣旨に照らして明らかである。
道路交通法七二条一項後段、一一九条一項一〇号の合憲性
憲法38条1項,道路交通法72条1項後段,道路交通法119条1項10号
判旨
道路交通法72条1項後段に定める交通事故時の報告義務は、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に違反しない。先行の最大判昭和37年5月2日判決の趣旨に照らし、同義務の合憲性が改めて確認された。
問題の所在(論点)
道路交通法72条1項後段が定める交通事故発生時の警察官への報告義務が、自己負罪拒否特権を規定する憲法38条1項に違反するか。
規範
憲法38条1項が保障する自己負罪拒否特権は、何人も自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障するものである。しかし、道路交通法上の報告義務は、交通事故の円滑な処理や道路における危険の防止といった行政目的のために課されるものであり、直ちに刑事責任を追及することを直接の目的とするものではないため、同条項に違反しない。
重要事実
被告人は道路交通法違反等の罪で起訴されたが、同法72条1項後段(交通事故発生時の報告義務)および同法119条1項10号(報告義務違反の罰則)の規定について、自己に不利益な供述を強制するものであり、憲法38条1項に違反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和44(あ)2632 / 裁判年月日: 昭和46年2月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段に規定される報告義務は、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、交通事故を発生させた際、道路交通法72条1項後段に基づく警察官への報告義務を果たさなかった。これに対し、被告人は当該報告義務の強制が憲法38条1項が保障する「自己に不利益な供…
あてはめ
最高裁判所は、先行する昭和37年5月2日の大法廷判決の趣旨を引用した。同判決の趣旨によれば、報告義務の内容は、事故の発生場所、死傷者の数、物の損壊の程度といった客観的事実に限られ、刑事責任の帰属に関わる事項(過失の有無等)まで強制するものではない。したがって、本件規定も公の利益のために必要かつ合理的な範囲の義務を課すものであり、刑事責任を追及するための供述強制には当たらないと評価される。
結論
道路交通法72条1項後段および119条1項10号は、憲法38条1項に違反しない。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
行政上の目的(交通秩序の維持・危険防止)のために課される報告義務が、付随的に刑事上の不利益をもたらす可能性があっても、直ちに自己負罪拒否特権の侵害にはならないという論法として、他の行政罰や報告義務の合憲性検討に活用できる。
事件番号: 昭和42(あ)2592 / 裁判年月日: 昭和43年5月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段に基づく交通事故の内容報告義務は、憲法38条1項が保障する自己に不利益な供述の強要禁止に違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、道路交通法違反等の罪に問われた事案において、同法72条1項後段が定める交通事故の内容報告義務を負うことが、自己負罪拒否権を保障する憲法38条1項…
事件番号: 昭和43(あ)2617 / 裁判年月日: 昭和44年4月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段に定められた運転者の報告義務は、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、道路交通法違反の罪に問われ、同法72条1項後段が定める交通事故の際の運転者による報告義務が憲法38条1項に違反すると主張して上告した。 第2 問題の所在(論点):道路…
事件番号: 昭和62(あ)151 / 裁判年月日: 昭和62年5月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段に規定する報告義務は、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、道路交通法違反(報告義務違反等)の罪で起訴された。弁護人は、道路交通法72条1項後段が定める交通事故発生時の警察官への報告義務が、憲法38条1項が保障する自己負罪拒否特権に抵触…
事件番号: 昭和44(あ)1617 / 裁判年月日: 昭和44年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法上の報告義務(72条1項後段)は、交通事故の内容を警察官に報告させるものであるが、それは事後の適正な交通規制や被害者の救護を目的とするものであり、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に反しない。 第1 事案の概要:被告人は道路交通法違反(ひき逃げ等)の事案において、同法72条1項後段が定める…