爆発物取締罰則第一条所定の犯罪行為に対し所定の如き重い法定刑を定めたとしても、それは立法政策の問題となりうるに止まり、憲法適否の問題でなく立法機関の裁量に委ねられた範囲のものであり、右法定刑も何ら憲法第三六条にいう残虐な刑罰であるということはできない。このことは昭和二三年(れ)第一〇三三号同年一二月一五日大法廷判決(集二巻一三号一七八三頁)、昭和二二年(れ)第三二三号同二三年六月二三日大法廷判決(集二巻七号七七七頁)の趣旨に照らし明らかである。
爆発物取締罰則第一条の法定刑と憲法第三六条にいう「残虐な刑罰」。
爆発物取締罰則1条,憲法36条
判旨
爆発物取締罰則1条の法定刑は、懲役刑の短期が7年であり執行猶予の余地がないとしても、立法政策の裁量範囲内であり、憲法36条の「残虐な刑罰」には当たらない。
問題の所在(論点)
爆発物取締罰則1条の法定刑が、執行猶予の付与を事実上排除している点において、憲法36条の禁止する「残虐な刑罰」にあたり違憲となるか。
規範
特定の犯罪行為に対して重い法定刑を定めることは、原則として立法機関の裁量に委ねられた立法政策の問題である。その刑罰が憲法36条にいう「残虐な刑罰」に該当しない限り、憲法違反の問題とはならない。
重要事実
被告人らは、爆発物取締罰則1条違反の罪に問われた。同条は、爆発物を使用して人の身体を害し、または財産を損壊した者等に対し、死刑または無期もしくは7年以上の懲役または禁錮を規定している。弁護人は、懲役刑の短期が7年であるため、刑法の酌量減軽を行っても刑期が3年以下にならず、執行猶予を付す余地がないことは、憲法11条、13条、25条、36条等に違反し、過重で残虐な刑罰であると主張した。
あてはめ
本件罰則1条が定める法定刑は、爆発物使用という重大な危険を伴う犯罪行為に対応するものである。懲役刑の短期が7年であり、酌量減軽(刑法66条、68条3号)を適用しても執行猶予の要件である「3年以下の懲役」(刑法25条1項)を満たせないという結果を招くとしても、それは犯罪の性質に鑑みた立法政策上の判断である。このような刑の重さは、人道に反するような異常な苦痛を伴う刑罰ではなく、憲法36条が禁じる「残虐な刑罰」とはいえない。
結論
爆発物取締罰則1条の法定刑は憲法36条に違反せず、合憲である。上告を棄却する。
実務上の射程
刑事立法における法定刑の決定に関する広範な立法裁量を認める判例として重要である。特に「執行猶予の余地がない法定刑」であっても、直ちに違憲とはならない点を示す。もっとも、現在では「比例原則」の観点から、犯罪の性質と刑罰が著しく均衡を失う場合には違憲の余地を認める学説も有力であるため、本判例をベースとしつつ事案に応じた均衡論の検討が必要となる。
事件番号: 昭和51(あ)252 / 裁判年月日: 昭和51年11月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】爆発物取締罰則は憲法施行後も法律として効力を有し、その1条が定める「治安ヲ妨ケ」の概念は憲法31条にいう明確性の原則に反せず、同条の法定刑も憲法36条の残虐な刑罰には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は、所定の目的で爆発物を使用したとして爆発物取締罰則1条違反の罪に問われた。これに対し、被告人…
事件番号: 平成8(あ)830 / 裁判年月日: 平成9年8月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】爆発物取締罰則は現在も法律としての効力を有し、「治安ヲ妨ケ」るという構成要件も明確性の原則に反せず、かつ定められた刑罰が残虐な刑罰に当たったり思想差別を目的としたりするものではない。 第1 事案の概要:被告人らは、爆発物取締罰則違反等の罪で起訴された。これに対し、被告人側は、同罰則が明治17年太政…
事件番号: 昭和57(あ)1761 / 裁判年月日: 昭和62年3月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】爆発物取締罰則の合憲性、死刑制度の残虐刑該当性、および被告人の訴訟態度等を量刑事情として考慮することの正当性を認めた。 第1 事案の概要:被告人らは、連続企業爆破事件等に関与し、爆発物取締罰則違反や殺人等の罪に問われた。一審および二審において被告人C・Dには死刑、被告人Aには無期懲役が言い渡された…