一 爆発物取締罰則一条にいう「治安ヲ妨ケ又ハ人ノ身体財産ヲ害セントスルノ目的」のうち「治安ヲ妨ケ」るとは、公共の安全と秩序を害することをいう。 二 爆発物取締罰則は、現行憲法のもとにおいても、法律としての効力を有する(昭和二三年(れ)第一一四〇号同二四年四月六日大法廷判決・刑集三巻四号四五六頁、昭和三二年(あ)第三〇九号同三四年七月三日第二小法廷判決・刑集一三巻七号一〇七五頁参照)。 三 爆発物取締罰則の定める刑は、残虐な刑罰とはいえず(昭和二二年(れ)第三二三号同二三年六月二三日大法廷判決・刑集二巻七号七七七頁参照)、また、同罰則がその対象たる行為についてその所定のごとき刑を定めることは、立法政策の問題であって、憲法適否の問題ではない(昭和二三年(れ)第一〇三三号同年一二月一五日大法廷判決・刑集二巻一三号一七八三頁、昭和三六年(あ)第一一六八号同三七年九月一八日第三小法廷判決・裁判集刑事一四四号六四一頁参照)。
一 爆発物取締罰則一条にいう「治安ヲ妨ケ」るの意義 二 爆発物取締罰則の法律としての効力 三 爆発物取締罰則の定める刑と憲法との関係
爆発物取締罰則1条,爆発物取締罰則3条,爆発物取締罰則,憲法36条
判旨
爆発物取締罰則の「治安ヲ妨ケ」るという構成要件は公共の安全と秩序を害することを意味し、憲法に違反するほど不明確ではない。また、爆発物の高い危険性に鑑みれば、同罰則が定める重い法定刑は立法政策の範疇に属し、憲法に違反しない。
問題の所在(論点)
爆発物取締罰則の構成要件である「治安ヲ妨ケ」るという概念が、憲法31条に違反するほど不明確であるか。また、同罰則の定める刑罰が過酷であり憲法に違反するか。
規範
刑罰法規の構成要件が曖昧であってはならないという適正手続の要請(憲法31条)の観点から、その文言が通常の判断能力を有する一般人の理解において具体的意味内容を確定できるか否かが判断基準となる。また、法定刑の均衡については、当該行為の危険性と保護法益の重要性を比較衡量し、立法府の裁量の範囲内にあるか否かによって判断される。
重要事実
被告人は爆発物取締罰則3条(爆発物の使用、製造、所持等)の違反により起訴された。弁護側は、同罰則が定める「治安ヲ妨ケ」るという目的の概念が極めて不確実・不明確であり、かつ定められた刑罰が過酷であるとして、憲法31条等の規定に違反し無効であると主張して上告した。
あてはめ
「治安ヲ妨ケ」るとは、文理上「公共の安全と秩序を害すること」を指すと解するのが相当であり、一般人の理解として不明確とはいえない。また、爆発物は極めて大きな破壊力を有し、公共の安全や人の生命・身体・財産に対し広範かつ甚大な危害を及ぼす蓋然性が高いため、これに対して厳しい刑罰を科すことは合理的な立法政策の範囲内であり、残虐な刑罰にも当たらない。
結論
爆発物取締罰則の規定は憲法に違反せず、合憲である。被告人に対する同法3条の適用は正当である。
実務上の射程
本判決は、爆発物取締罰則の合憲性を維持した重要な先例である。答案上は、罪刑法定主義(明確性の原則)が問題となる場面で、広範な文言であっても解釈によりその意味内容が確定できる場合の例として引用できる。また、爆発物の危険性を根拠に厳しい法定刑を肯定する論法は、公衆の安全を害する犯罪の法定刑の合理性を論じる際の参考となる。
事件番号: 平成8(あ)830 / 裁判年月日: 平成9年8月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】爆発物取締罰則は現在も法律としての効力を有し、「治安ヲ妨ケ」るという構成要件も明確性の原則に反せず、かつ定められた刑罰が残虐な刑罰に当たったり思想差別を目的としたりするものではない。 第1 事案の概要:被告人らは、爆発物取締罰則違反等の罪で起訴された。これに対し、被告人側は、同罰則が明治17年太政…