一 原判決が「選挙運動の報酬及び費用」と判示したのは、所論各金員は選挙運動の報酬と費用とを区別することなく包括して不可分的に授受されたものと認定しているものと解せられる。大審院昭和八年(れ)第七三八号同年七月六日判決、刑集一二巻一一六二頁参照。 二 (原判決の要旨)被告人Aは被告人B、同C及びDが、被告人Bは自己の当選を得る目的を以て、被告人C及びDは被告人Bに当選を得しめる目的を以て、選挙運動の報酬及び費用として供与するものであることの情を知りながら昭和三十三年五月一四日頃、被告人B選挙事務所に於て被告人Dから現金十五万円の供与を受けたものである。
選挙運動の報酬及び費用が包括して不可分的に授受されたものと認定した事例。
公職選挙法221条1項4号
判旨
選挙運動の報酬と費用を区別することなく包括して不可分的に授受した場合には、その金員全体を公職選挙法上の「選挙運動の報酬及び費用」として認定し、その授受を処罰の対象とすることができる。
問題の所在(論点)
1. 一罪の一部を構成する事実について、主文で個別に無罪を言い渡す必要があるか。 2. 報酬と費用を区別せずに包括して授受された金員を「選挙運動の報酬及び費用」として一体的に処罰できるか。
規範
選挙運動に関して授受される金員について、それが報酬(労務の対価)としての性質と費用(実費の補填)としての性質を併せ持つ場合、それらを明確に区別することなく一括して不可分的に授受されたときは、その全体を一体のものとして「選挙運動の報酬及び費用」と解するのが相当である。
重要事実
被告人Aは、選挙運動に関し、報酬および費用の名目で複数の者から金員の供与を受けた。具体的には、15万円の受供与を含む合計30万円の受供与罪の一部として起訴された事実があった。原審は、当該金員が報酬と費用を区別することなく包括して授受されたものと認定し、これを「選挙運動の報酬及び費用」と判示した。被告人側は、一部の事実について無罪の言い渡しがないことや、判例違反等を理由に上告した。
あてはめ
1. 本件15万円の受供与事実は、合計30万円の受供与罪という一罪の一部として起訴されたものである。したがって、その一部について別途無罪の言い渡しをしないことは正当である。 2. 本件で授受された各金員は、選挙運動の報酬としての性質と費用としての性質を分かつことなく、包括して不可分的に授受されたものと認定される。この場合、大審院判例の趣旨に照らしても、これらを一体として処罰の対象とすることに違法はない。
結論
1. 一罪の一部については主文で無罪を言い渡す必要はない。 2. 報酬と費用を包括的に授受した金員を一体として認定することは正当であり、原判決を維持する。
実務上の射程
選挙犯罪における金員授受の認定において、報酬と実費の厳密な区分が困難な実務上の実態を考慮し、包括的な認定を許容する射程を持つ。また、数個の事実が合算されて一罪を構成する場合、その一部の不成立が結論に影響しない限り、主文での無罪判示は不要とする実務処理を裏付けるものである。
事件番号: 昭和30(あ)2307 / 裁判年月日: 昭和30年12月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙運動の報酬と合法的な実費を一括して供与された場合、両者の割合が判明せず区別できないときは、その全額について公職選挙法221条1項4号の供与罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、選挙運動に伴い金員の供与を受けた。この金員には、本来は報酬として禁止される性質のものと、選挙運動の費用(実費)…