監獄法に規定する懲罰はもとより刑罰と同一ではないのであるから、被告人が同法に規定する懲罰を受けた後、更に同一事実に基いて掲示訴追を受け、有罪判決の言渡を受けたとしても、憲法三九条後段に違反するものでない
監獄法に規定する懲罰と刑罰
監獄法59条,監獄法60条,憲法39条後段
判旨
監獄法に基づく懲罰は、憲法39条後段が二重処罰を禁じている刑罰とはその性質を異にする。したがって、同一の行為について懲罰を受けた後に刑事訴追を行うことは二重処罰禁止の原則に反しない。
問題の所在(論点)
行政上の制裁である懲罰を受けた事実について、さらに刑事訴追を行うことが、憲法39条後段の禁止する「重ねて刑事上の責任を問うこと(二重処罰禁止)」に抵触するか。
規範
憲法39条後段は、同一の犯行について重ねて「刑事上の責任」を問うことを禁じるものである。この点、行政上の規律維持を目的とする懲罰は、犯罪に対する制裁としての刑罰と同一ではないため、両者が併科されても同条には違反しない。
重要事実
被告人は監獄法(現:刑事収容施設法)に基づき、収容中の不適切な行為を理由に懲罰を受けた。その後、検察官は同一の事実を犯罪構成事実として被告人を刑事訴追し、裁判所は有罪判決を言い渡した。これに対し被告人側は、既に懲罰という制裁を受けている以上、重ねて刑事罰を科すことは憲法39条後段が禁じる二重処罰にあたるとして上告した。
あてはめ
憲法39条後段が禁じるのは、同一事由について二度刑事上の責任を問うことである。監獄法に規定される懲罰は、監獄(施設)内の規律と秩序を維持するための行政処分であり、国家の刑罰権の行使である刑罰とはその目的・法的性質を異にする。したがって、同一事実に基づき懲罰と刑罰が重畳的に科されたとしても、それは二重の刑事責任を問うたことにはならず、同条の禁止する二重処罰の範囲外であると評価される。
結論
監獄法に基づく懲罰の後に刑事訴追を受けても、憲法39条後段には違反しない。本件上告は棄却される。
実務上の射程
行政上の秩序罰や懲戒処分と刑事罰の併科が問題となる局面におけるリーディングケース。公務員の懲戒処分と刑事罰、学校の停学・退学処分と刑事罰など、異なる法的評価軸に基づく制裁が重なる場合の合憲性判断の基礎となる。
事件番号: 昭和43(あ)593 / 裁判年月日: 昭和44年7月25日 / 結論: 棄却
監獄法に規定する懲罰を受けた後、更に同一事実に基づいて刑事訴追を受け、有罪判決の言渡を受けても、憲法三九条後段に違反しない。