弁護人が被告人に対する起訴事実と関連性のある民事訴訟事件を受任していたからといつて、同弁護人は憲法三七条三項にいう「資格のある弁護人」でないということはできない。
起訴事実と関連性のある民事訴訟事件の受任と憲法第三七条第三項にいう「資格のある弁護人」。
憲法37条3項
判旨
国選弁護人が被告人の起訴事実に関連する民事事件を受任していたとしても、その一事をもって直ちに憲法37条3項の「資格のある弁護人」を付されなかったとはいえない。弁護人が実質的に弁護活動を怠り、被告人の防御に不利益を与えたと認められる特段の事情がない限り、憲法違反には当たらない。
問題の所在(論点)
弁護人が被告人の事件と関連する民事事件を受任している場合、憲法37条3項にいう「資格のある弁護人」による援助を受ける権利を侵害したといえるか。いわゆる弁護人の利益相反行為が「資格のある弁護人」の欠如に該当するかの判断基準が問題となる。
規範
憲法37条3項が保障する「資格のある弁護人」の援助を受ける権利が侵害されたというためには、単に弁護人が相手方当事者等の関係事件を受任しているといった形式的な事情があるだけでは足りず、そのことにより弁護人が弁護活動を怠り、被告人の防御にいささかの不利益を与えたと認められるような、実質的に弁護人を付さなかったと同視すべき特段の事情が存在することを要する。
重要事実
被告人の一審国選弁護人が、刑事訴訟の係属中に、被告人の起訴事実の一部(窃盗等)と関連性のある民事訴訟事件を受任した。被告人側は、利益相反的な立場にある弁護人は「資格のある弁護人」にあたらず、弁護人選任権を侵害したものであると主張した。記録上、当該起訴事実については受任前の公判期日までに審理がなされており、受任後の公判期日では当該事実とは無関係な起訴状訂正や追起訴事実の審理のみが行われていた。
あてはめ
本件弁護人の活動をみるに、関連する民事事件を受任する以前の段階で、当該起訴事実に関する審理は実質的に終了していた。また、受任後の公判期日においても、別件の起訴状訂正や新たな追起訴事実の審理が行われたに過ぎない。したがって、弁護人が民事事件を受任したために刑事事件の弁護活動を怠った事実は認められず、被告人の防御に不利益を与えたともいえない。よって、資格のある弁護人を付さなかったと同視すべき特段の事情は認められない。
結論
被告人の防御に不利益を与えた事実はなく、憲法37条3項違反には当たらない。
実務上の射程
弁護人の実効的な援助の保障に関する判例である。弁護人に任務懈怠や利益相反の疑いがある場合でも、即座に違憲とするのではなく、具体的な弁護活動の内容や被告人への不利益の有無という実質的観点から「特段の事情」を判断する枠組みを示しており、実効的弁護権の侵害を主張する際のハードルの高さを示している。
事件番号: 昭和57(あ)736 / 裁判年月日: 昭和57年9月17日 / 結論: 棄却
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