判旨
裁判官が迅速な審判を目的として弁護人の数を制限したこと、又は不適法な特別抗告の申立てを棄却したことは、不公平な裁判をする虞がある事由には当たらない。また、裁判官が事件の進行について希望や意見を述べたとしても、直ちに予断を抱いているとは評価されない。
問題の所在(論点)
裁判官による「弁護人の数の制限」や「不適法な不服申立ての棄却」、および「訴訟進行に関する意見表明」が、刑事訴訟法21条に規定される「裁判官が不公平な裁判をする虞があるとき」に該当するか。
規範
刑事訴訟法21条にいう「不公平な裁判をする虞があるとき」とは、通常人の判断において、裁判官が偏頗な裁判をするのではないかとの疑念を抱く客観的な事情が存在する場合を指す。訴訟指揮としての弁護人数の制限(刑訴法35条、刑訴規則26条)や、法律上当然の措置としての不適法な不服申立ての棄却は、適正な手続の範囲内であり、不公平な裁判を示唆する事情には該当しない。また、円滑な訴訟運営のための希望や意見の表明も、直ちに予断を形成したものとは解されない。
重要事実
跳躍上告(刑訴規則254条)に係る事件において、優先審判(同規則256条)が必要と認められたため、最高裁判所第一小法廷は、迅速な審判を目的として弁護人の数を制限する決定を行った。これに対し被告人側が特別抗告を申し立てたが、最高裁はこれを不適法として棄却した。さらに、担当の斎藤裁判官が事件の進行について希望や意見を述べた事実があった。申立人は、これらの事情が裁判官の予断を招き不公平な裁判をする虞があるとして、同裁判官の忌避を申し立てた。
あてはめ
第一に、弁護人の数(刑訴法35条等)の制限は、迅速な審判を図るための正当な訴訟指揮であり、被告人の弁護人選任権等を不当に制限するものではない。第二に、最高裁の決定に対して特別抗告は許されないため、これを棄却したことは法律上当然の措置である。第三に、裁判官による進行上の希望や意見は、訴訟運営の便宜を図る性質のものであり、事件の内容について不当な予断を抱いているとは評価できない。以上の事情はいずれも、客観的に不公平な裁判が行われることを疑わせる事情とはいえない。
結論
本件忌避の申立ては理由がなく、却下されるべきである。
事件番号: 昭和34(す)189 / 裁判年月日: 昭和34年7月1日 / 結論: 却下
裁判官が日本国憲法の理念または社会現象についての所感を発表しても、その一事をもつて事件につき不公平な裁判をする虞があるものとはいえない。
実務上の射程
訴訟指揮権の行使(弁護人数の制限や訴訟進行の整理)が直ちに忌避原因とならないことを示した事例。弁護権の保障と訴訟の迅速化の調和という観点から、適正な訴訟運営の範囲内であれば、裁判官の公平性への疑念は生じないと判断される。実務上、忌避が認められるためには、具体的かつ客観的な偏頗の事情が必要であり、手続上の判断への不服のみでは足りないことを明確にしている。
事件番号: 昭和38(す)324 / 裁判年月日: 昭和38年10月4日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】裁判官について「不公平な裁判をする虞がある」と認められる客観的な事由が存在しない場合、刑事訴訟法21条に基づく忌避の申立ては理由がないとして却下される。 第1 事案の概要:被告人AおよびBに対する暴力行為等処罰に関する法律違反等被告事件において、申立人が最高裁判所の下飯坂裁判官を忌避する旨を申し立…
事件番号: 昭和34(す)198 / 裁判年月日: 昭和34年7月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】最高裁判所がした裁判官に対する忌避申立却下の決定に対し、法律上、異議申立てを許す規定は存在しないため、かかる申立ては不適法である。 第1 事案の概要:被告人Aら7名は、日米行政協定に伴う刑事特別法違反事件において、最高裁判所裁判官斎藤悠輔に対する忌避の申立てを行った。最高裁判所は昭和34年6月25…