裁判官が日本国憲法の理念または社会現象についての所感を発表しても、その一事をもつて事件につき不公平な裁判をする虞があるものとはいえない。
裁判官忌避の理由にあたらないとされた事例。
刑訴法21条
判旨
裁判官が憲法の理念や社会現象について所感を述べたこと、開廷数について他の裁判官と協議したこと、または弁護人と面会しなかったことは、直ちに不公平な裁判をする虞があるとは認められない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法21条1項に基づき、裁判官の一般的所感の公表や審理に関する事務的協議、弁護人との面会拒絶が「不公平な裁判をする虞があるとき」に該当するか。
規範
刑事訴訟法21条1項にいう「不公平な裁判をする虞があるとき」とは、裁判官が事件に対して予断や偏見を持ち、中立・公正な立場から裁判を行うことが期待できない客観的事由が存在する場合をいう。単なる一般的な思想の表明や、円滑な審理に向けた事務的な協議、あるいは職務上の面会拒絶のみでは、直ちに本要件を満たさない。
重要事実
砂川事件の最高裁審理において、田中耕太郎最高裁判所長官に対し忌避が申し立てられた。申立理由は、①田中裁判官が憲法理念や社会現象に関する文章・対談で自説を述べていたこと、②大法廷への回付を見越し、開廷数等について他の裁判官と事実上の下打ち合わせを行ったこと、③弁護人との面会に応じなかったこと、等が不公平な裁判の虞に当たるとするものであった。
事件番号: 昭和34(す)183 / 裁判年月日: 昭和34年6月25日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】裁判官が迅速な審判を目的として弁護人の数を制限したこと、又は不適法な特別抗告の申立てを棄却したことは、不公平な裁判をする虞がある事由には当たらない。また、裁判官が事件の進行について希望や意見を述べたとしても、直ちに予断を抱いているとは評価されない。 第1 事案の概要:跳躍上告(刑訴規則254条)に…
あてはめ
まず、憲法理念等に関する所感の表明は、特定の事件に対する予断の表明ではなく、社会現象に対する見解に止まる。次に、開廷数等の協議は、本件が大法廷回付を予想される重大事件である以上、円滑な審理進行のための事務的事実上の打ち合わせに過ぎず、結論を左右する予断を伴うものではない。最後に、弁護人との面会拒絶も裁判官の訴訟指揮や態度の範疇に属し、これをもって不公平な裁判がなされる客観的事由があるとは評価できない。
結論
本件忌避申立ては、「不公平な裁判をする虞があるとき」の要件を満たさず、不適法または理由がないとして却下される。
実務上の射程
裁判官の思想的背景や一般的な司法行政上の言動、訴訟指揮の不満を理由とする忌避の限界を示した事例。具体的事件の結論をあらかじめ確定させているような事情がない限り、忌避は認められないという実務上の高いハードルを裏付ける。
事件番号: 昭和34(す)198 / 裁判年月日: 昭和34年7月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】最高裁判所がした裁判官に対する忌避申立却下の決定に対し、法律上、異議申立てを許す規定は存在しないため、かかる申立ては不適法である。 第1 事案の概要:被告人Aら7名は、日米行政協定に伴う刑事特別法違反事件において、最高裁判所裁判官斎藤悠輔に対する忌避の申立てを行った。最高裁判所は昭和34年6月25…