判旨
裁判官が同一の事実関係を論点とする別事件の判決謄本を証拠として取り調べ、その内容を事前に了知したとしても、直ちに憲法37条1項の「公平な裁判所」に反するとはいえない。除斥事由に該当せず、忌避の理由も認められない場合には、当該裁判官による審理・判決は憲法上の公平性を欠くものではない。
問題の所在(論点)
裁判官が、同一の事実関係を主要な論点とする別事件の判決内容を証拠調べを通じて了知することが、憲法37条1項にいう「公平な裁判所」による裁判を妨げることになるか。特に、刑事訴訟法上の除斥・忌避事由との関係が問題となる。
規範
憲法37条1項が保障する「公平な裁判所」とは、偏頗の恐れのない裁判所を指す。裁判官が職務の執行から除斥されるべき事情がなく、かつ忌避の理由も認められない場合には、その裁判官のした審理・判決を同条にいう「公平な裁判所の裁判」ではないということはできない。
重要事実
被告人が被疑者Aの取調に当たり暴行を加えて自白を強要したとされる事件(特別公務員暴行陵虐罪等)において、原審は、同一の暴行事実を理由にAに対し無罪を言い渡した別事件の判決謄本を証拠として取り調べた。被告人側は、原審裁判官が同僚裁判官の出した別事件の無罪判決に引きずられ、同様の結論を導き出す予断を抱いたものであるから、憲法37条1項の「公平な裁判所」に反すると主張して上告した。なお、当該証拠の取調べについては被告人・弁護人の同意があった。
あてはめ
本件において、原審が別事件の無罪判決謄本を証拠調べしたことにより、裁判官が事前にその内容を了知するに至ったことは認められる。しかし、刑事訴訟法が定める除斥事由に該当する事実はなく、また、被告人・弁護人自身が同意した上での証拠調べであること等に照らせば、不公平な裁判をするおそれがある客観的事情があるとはいえず、忌避の理由となるものとも認められない。したがって、裁判官が職務の執行から除斥・忌避されるべき状況にはなく、憲法37条1項違反の前提を欠く。
結論
裁判官に除斥事由がなく、忌避すべき理由もない以上、別事件の判決を証拠として取り調べたとしても、憲法37条1項の「公平な裁判所」による裁判としての適格を失うものではない。
実務上の射程
裁判官の予断排除に関する憲法上の判断枠組みを示す。実務上、裁判官が関連事件の記録や判決に接したとしても、それが直ちに「不公平」とされるわけではなく、刑訴法の除斥・忌避制度の枠内で判断されることを確認した。答案上は、裁判所の構成の適法性が争われる場面で、具体的・客観的な偏頗の恐れがあるか否かを判断する際の基準として引用できる。
事件番号: 昭和27(あ)635 / 裁判年月日: 昭和28年7月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第一回公判期日前の勾留に関する処分に関与した裁判官が、後の本案審理・判決に関与することは、刑事訴訟法20条所定の除斥事由に該当せず、憲法37条1項の公平な裁判所による裁判に反しない。 第1 事案の概要:被告人の刑事事件において、第一回公判期日前に行われた勾留に関する処分を担当した裁判官が、その後の…