判旨
控訴裁判所が第一審の執行猶予判決を量刑不当として破棄し、事実取調べを行うことなく訴訟記録及び第一審の証拠のみに基づき実刑を言い渡すことは、刑事訴訟法400条ただし書及び憲法31条に違反しない。
問題の所在(論点)
控訴裁判所が第一審の執行猶予判決を量刑不当として破棄し、実刑を言い渡す際に、事実の取調べを必ずしも必要とするか。特に、第一審の証拠資料のみに基づいて実刑に変更することが憲法31条等に抵触しないか。
規範
控訴審において、第一審判決を量刑不当として破棄し自判する場合、自ら新たな事実の取調べを行うことなく、第一審の訴訟記録及び既往の証拠のみに基づき、執行猶予を実刑に変更したとしても、刑訴法400条ただし書(現行397条、400条関係)及び憲法31条に違反するものではない。
重要事実
第一審裁判所が被告人に対し、懲役刑の執行猶予を言い渡した。これに対し控訴裁判所(原審)は、第一審判決を量刑不当として破棄し、自ら懲役刑(実刑)を言い渡した。弁護人は、控訴審が新たな事実取調べを十分に経ることなく実刑に変更したことは憲法31条(適正手続)等に違反すると主張して上告した。なお、本件原審では証人尋問や被告人質問も実施されていた。
あてはめ
最高裁は大法廷判決を引用し、控訴裁判所が第一審判決を破棄して自判する際、事実の取調べを行わずに訴訟記録と第一審の証拠のみに基づき実刑(執行猶予なし)の判決をしても、法的に許容されると判断した。本件においては、原審は実際に証人2名の尋問や被告人質問を行っており、手続的にも十分な基礎に基づき量刑判断を行っているため、憲法違反や法合憲性の瑕疵は認められない。
結論
第一審の執行猶予判決を控訴審が実刑に変更することは、特段の事実取調べを経ない場合であっても、訴訟記録等の証拠に基づき適法に行い得る。
事件番号: 昭和38(あ)2675 / 裁判年月日: 昭和39年5月29日 / 結論: 棄却
(裁判官山田作之助同城戸芳彦の少数意見)多数意見は、第一審判決が懲役刑の執行猶予を言渡した場合に、控訴審がなんら事実の取調をしないで、第一審判決を量刑不当として破棄し、みずから訴訟記録および第一審で取り調べた証拠のみによつて、ただちに懲役刑(実刑)の言渡をしても、刑訴法第四〇〇条但書に違反するものではないとした昭和二七…
実務上の射程
量刑不当を理由とする控訴審の自判権の範囲に関する判例である。被告人に不利益な変更であっても、一審の記録に基づき判断可能とする「事後審的性格」を肯定する文脈で活用できる。ただし、現代の運用や最高裁判例(最判昭57.4.27等)の文脈では、量刑判断の基礎となる事実に争いがある場合は、事実取調べの必要性がより厳格に議論される点に留意が必要である。
事件番号: 昭和28(あ)4611 / 裁判年月日: 昭和31年11月30日 / 結論: 棄却
一 検察官から控訴申立のあつた事件において、控訴審が、訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠によつて、その量刑軽きに過ぎると認めたときは、何ら自ら事実の取調をしないで第一審判決の刑より重い刑の判決を言い渡しても刑訴四〇〇条但書に違反するものでないことは昭和二七年(あ)第四二二三号同三一年七月一八日言渡大法廷判決(集一〇巻七…