第一審で無罪を言い渡された被告人に対し、控訴裁判所が事実調のうえ、右無罪判決を破棄し、自ら有罪の判決を言い渡すこと、およびこの場合、右控訴審判決に対し、上訴において事実誤認等を争う途が閉ざされていることは、憲法三一条ないし四〇条またはその精神に反するものではない。
控訴審における破棄自判判決と審級利益
憲法31条,刑訴法400条但書,刑訴法405条
判旨
第一審で無罪とされた被告人に対し、控訴裁判所が事実取調べを行った上で有罪判決を言い渡すこと、およびその判決に対して事実誤認を理由とした上訴が制限されていることは、憲法に違反しない。
問題の所在(論点)
第一審の無罪判決を控訴審が事実取調べに基づき破棄自判して有罪とすること、およびその控訴審判決に対し事実誤認等を理由に上告できないことが、憲法に違反するか。
規範
控訴審において事実の取調べを行い、第一審の無罪判決を破棄して自ら有罪を言い渡すことは、現行の刑事訴訟構造において許容される。また、当該控訴審判決に対して事実誤認等を争う途が上告審において限定されていることも、裁判を受ける権利や適正手続等の憲法の諸規定に違反するものではない。
重要事実
被告人は第一審で無罪判決を言い渡されたが、検察官がこれに不服として控訴を申し立てた。控訴裁判所は事実の取調べを行った上で、第一審の無罪判決を破棄し、自ら被告人に対して有罪判決を言い渡した。被告人側は、このような控訴審の運用および上告審で事実誤認を争えない仕組みが憲法違反であると主張して上告した。
あてはめ
最高裁は過去の大法廷判決(昭和26年、昭和27年、昭和22年の各判決)を引用し、控訴審による無罪判決の破棄・自ら有罪判決を下す手続は、憲法の規定や精神に反しないとした。また、上告審が原則として法律審であり事実誤認を直接の理由とした上訴を制限している点についても、憲法が保障する裁判を受ける権利を侵害するものではないと判断した。本件における上訴趣旨は単なる事実誤認等の主張に留まり、刑訴法405条の上告理由に該当しない。
結論
本件上告を棄却する。控訴審による無罪判決の破棄自判および上告理由の制限は憲法に適合する。
実務上の射程
刑事訴訟法における控訴審の性質(事後審的性格をもちつつ続審的要素も有すること)を前提とした判例である。被告人に有利な第一審判決が控訴審で覆ることの合憲性を論じる際や、上告審の法律審としての限界を確認する際の基礎となる判例である。
事件番号: 昭和34(あ)2315 / 裁判年月日: 昭和35年5月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴裁判所が第一審の執行猶予判決を量刑不当として破棄し、事実取調べを行うことなく訴訟記録及び第一審の証拠のみに基づき実刑を言い渡すことは、刑事訴訟法400条ただし書及び憲法31条に違反しない。 第1 事案の概要:第一審裁判所が被告人に対し、懲役刑の執行猶予を言い渡した。これに対し控訴裁判所(原審)…