一 検察官から控訴申立のあつた事件において、控訴審が、訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠によつて、その量刑軽きに過ぎると認めたときは、何ら自ら事実の取調をしないで第一審判決の刑より重い刑の判決を言い渡しても刑訴四〇〇条但書に違反するものでないことは昭和二七年(あ)第四二二三号同三一年七月一八日言渡大法廷判決(集一〇巻七号一一七三頁)の判示するところである。 二 裁判所の言い渡した刑が被告人から見て重いと思われるものであつてもその裁判を公平な裁判所の裁判ではないということはできないこと、当裁判所大法廷の判例とするところである(昭和二二年(れ)第四八号同二三年五月二六日大法廷判決、集二巻五号五一一頁)。
一 控訴審が書面審理のみにより第一審判決より重い刑の判決を言渡した場合と刑訴第四〇〇条但書 二 憲法第三七条第一項にいう「公平な裁判所の裁判」
刑訴法400条但書,憲法31条,憲法37条1項
判旨
検察官から控訴申立があった事件において、控訴審が自ら事実の取調べをすることなく、訴訟記録及び第一審の証拠のみに基づき、第一審の執行猶予判決を破棄して実刑を言い渡すことは、刑訴法400条但書および憲法37条に違反しない。
問題の所在(論点)
控訴審において、事実の取調べを行わず、訴訟記録と第一審の証拠のみに基づき、第一審の執行猶予判決を破棄して実刑を言い渡すこと(自判)が、刑訴法400条但書および憲法37条に違反するか。
規範
控訴審において、検察官から量刑不当を理由とする控訴の申立てがある場合、裁判所は訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠を精査することで、第一審の量刑が軽きに過ぎると判断することができる。この際、控訴審自らが改めて事実の取調べ(被告人質問や証人尋問等)を行わず、書面審理のみに基づいて第一審よりも重い刑(執行猶予の取消しを含む)を言い渡したとしても、刑訴法400条但書の自判の規定に違反せず、憲法37条の公平な裁判所の裁判を受ける権利を侵害するものでもない。
重要事実
被告人は海賊を殺害・遺棄したとして殺人・死体遺棄罪で起訴された。第一審は被告人に対し懲役3年・執行猶予3年の判決を下した。これに対し被告人と検察官の双方が控訴し、検察官は量刑不当を主張した。原審(控訴審)は、事実の取調べを一切行わず、訴訟記録と第一審の証拠のみを検討した。その結果、一部の殺人について正当防衛を認めつつも、全体として第一審の量刑は軽すぎると判断し、第一審判決を破棄。改めて懲役2年の「実刑」を言い渡した。被告人は、事実取調べなしに執行猶予を奪い実刑とすることは違憲・違法であるとして上告した。
あてはめ
本件において、原審は検察官の控訴を受け、第一審の証拠関係を再検討している。刑訴法400条但書は、訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠によって直ちに判決することができる場合に自判を認めており、自ら事実取調べを行うことを必須としていない。また、被告人にとって重い結果となったとしても、それが適正な手続に基づくものである限り、憲法が保障する「公平な裁判所」による裁判としての性質を失うものではない。したがって、事実取調べを経ずに量刑を不利益に変更した原審の判断に違法はない。
結論
控訴審が書面審理のみで第一審の執行猶予を破棄し実刑を言い渡すことは適法であり、憲法にも違反しない。本件上告は棄却される。
実務上の射程
控訴審の事後審的性格を裏付ける判例であり、検察官控訴がある場合に、控訴審が独自の量刑判断に基づき、事実取調べなしに第一審より重い刑を科すことが可能であることを示している。答案上は、不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)の適用がない場面(検察官控訴時)における、400条但書の「自判」の限界を論ずる際に参照する。
事件番号: 昭和34(あ)2315 / 裁判年月日: 昭和35年5月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴裁判所が第一審の執行猶予判決を量刑不当として破棄し、事実取調べを行うことなく訴訟記録及び第一審の証拠のみに基づき実刑を言い渡すことは、刑事訴訟法400条ただし書及び憲法31条に違反しない。 第1 事案の概要:第一審裁判所が被告人に対し、懲役刑の執行猶予を言い渡した。これに対し控訴裁判所(原審)…