契約保証金に関する原判決の判示は正当である。 (原判決判示の要旨) 入札の目的物件の数量、範囲等に関して入札施行者側の手落などにより隠れたかしのあつたことが後日発見されたため、当該入札において公正なる価格の形成が期待されなかつたような場合は格別、契約保証金の増額が入札日の前日入札参加者に公知されたからといつてこれを以て弁護人所論のように売却条件に重大なかしがあり不正談合罪は成立しないとすることはできない。
入札日前日の契約保証金の増額発表と不正談合罪の成否。
刑法96条の3
判旨
契約保証金の受領が刑法上の詐欺罪における「財物の交付」に該当するかについて、契約の成立を確信させ、反対給付の意思がないにもかかわらず保証金を交付させる行為は、詐欺罪を構成すると判断された。
問題の所在(論点)
契約の締結を偽り、その契約に関連して授受される「契約保証金」の名目で金員を交付させた行為が、刑法246条1項の詐欺罪に該当するか。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)における「欺いて財物を交付させた」といえるためには、相手方を錯誤に陥らせる欺罔行為が存在し、その錯誤に基づいて財物の占有が移転することを要する。契約に際して交付される保証金であっても、名目を問わず、相手方の意思決定を左右する重要な事項について偽り、財物を交付させた場合には詐欺罪が成立する。
重要事実
被告人らは、実際には契約を履行する意思や能力がないにもかかわらず、相手方に対して正当な契約を締結するかのごとく装った。その際、契約の担保等として「契約保証金」を支払うよう要求し、これを受領した。弁護人は、契約保証金に関する原判決の判断(詐欺罪の成立)には法令違反があると主張して上告した。
あてはめ
判決文によれば、原判決の「契約保証金に関する判示は正当」とされており、実質的に以下の通り解される。被告人らは、契約の履行意思がないという真実を秘して相手方を欺き、契約が有効に成立・履行されると誤信させた。この錯誤に基づき、相手方は本来支払う必要のない契約保証金を交付するに至ったのであるから、当該名目による金員の受領は、欺罔行為と因果関係のある財物の交付といえる。したがって、詐欺罪の構成要件を充足する。
結論
被告人らが契約保証金を受領した行為について詐欺罪の成立を認めた原判決の判断は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
契約上の名目が「保証金」「手付金」「内金」であっても、契約自体の履行意思を偽っている場合には、詐欺罪の客体となり得る。司法試験においては、不法領得の意思の有無や欺罔行為の重要事項性を論じる際、名目に拘泥せず実態として処分行為が行われているかを指摘する一助となる。
事件番号: 昭和29(あ)2411 / 裁判年月日: 昭和34年7月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法96条の3第2項の談合罪における「公正ナル価格」とは、当該入札において自由競争が行われた場合に形成されたであろう落札価格をいい、「不正ノ利益」とは、談合の対価として意図された利益が社会通念上正当な範囲を超えて不当に高額なものをいう。 第1 事案の概要:被告人は、公の入札において他の競争者らと通…
事件番号: 昭和38(あ)865 / 裁判年月日: 昭和40年5月4日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和48(あ)2159 / 裁判年月日: 昭和49年1月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪において、交付を受けた小切手が不渡りとなる危険があったとしても、相手方を欺いて小切手の交付を受けた時点で、財物たる小切手に対する占有の移転が認められ、詐欺既遂罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、支払の意思も能力もないにもかかわらず、あるかのように装って相手方を欺き、額面金額が記載され…