道路の一定区間(工事中の片側通行区間)の両端に工事従業者中の交通整理係各一名が居て自動車通行の可否を手旗信号により合図することになつている場合においても、この区間で業務上貨物自動車を単独で運転する者は自動車を方向転換のため後退させようとするに際しては、下車その他適切な方法で車体の後方に人車のないことを確めて後に後進すべき業務上の注意義務があるものといわなければならない。
自動車運転者が工事従業者の交通整理係の手旗信号による合図により運転する場合の注意義務。
刑法211条
判旨
交通整理係が配置された工事区間であっても、自動車の運転者は後退時に自ら下車等の方法で後方の安全を確認すべき業務上の注意義務を負う。
問題の所在(論点)
交通整理係が配置され誘導が行われている工事現場において、貨物自動車の運転者が、誘導を信頼するだけでなく、自ら後退時の後方安全確認を行うべき業務上の注意義務を負うか(刑法211条前段の注意義務の存否)。
規範
道路の一定区間に交通整理係が配置され、手旗信号等による誘導が行われている状況下であっても、自動車を運転する者は、自らの運転操作に伴う危険を回避するため、後退に際しては下車その他適切な方法により車体後方に人車のないことを自ら確認すべき業務上の注意義務を負う。
重要事実
被告人は、道路の工事に伴い片側通行区間となっている場所で、業務として貨物自動車を単独で運転していた。当該区間の両端には交通整理係が各1名配置され、手旗信号で自動車通行の可否を合図する体制となっていた。被告人は、方向転換のために自動車を後退させた際、自ら後方の安全を確認することを怠った。
あてはめ
本件工事現場は片側通行区間であり、交通整理係による合図が行われる体制であった。しかし、かかる合図は通行の可否を整理するものであり、運転者自身の安全確認義務を直ちに免除するものではない。貨物自動車を後退させる行為は死角が生じやすく本質的に危険を伴うものであるから、たとえ交通整理係がいたとしても、運転者としては下車するなどして自ら後方の安全を確実に確認すべきであったといえる。本件では、被告人はこの確認を怠っており、業務上の注意義務違反が認められる。
結論
被告人には業務上過失致死傷罪(当時の刑法211条)が成立し、上告は棄却される。
実務上の射程
交通誘導員の指示がある場合でも運転者の過失が否定されないことを示す典型的な判例である。答案上は、信頼の原則の適否が問題となる場面で、誘導員の存在が運転者の具体的な注意義務を直ちに解消しないことを論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和44(あ)1833 / 裁判年月日: 昭和45年9月24日 / 結論: 破棄差戻
右折しようとする車両の運転者は、その時の道路および交通の状態その他の具体的状況に応じた適切な右折準備態勢に入つたのちは、特段の事情がない限り、後方を同一方向に進行する車両があつても、その運転者において、交通法規の諸規定に従い、追突等の事故を回避するよう正しい運転をするであろうことを期待して運転すれば足り、それ以上に、違…
事件番号: 昭和37(あ)2816 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
一 業務上過失致死傷罪にいわゆる業務につき、それが社会生活上の地位に基づきなされることを要しないとの原判示は相当でないが、原判決は被告人が自動車の運転を反覆断続して行なつていた事実を認定しているところ、右事実はとりもなおさず社会生活上の地位にほかならないから、結局原判決の右法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼさない。 二 …