判旨
住民基本台帳法に基づく住民票は、公務員が職務上作成する文書であって権利義務に関するある事実を証明する効力を有するものであるから、刑法157条1項にいう「権利義務ニ関スル公正証書」に該当する。
問題の所在(論点)
住民票が、刑法157条1項に規定される「権利義務ニ関スル公正証書」に該当するか。不実の住民登録をさせる行為が公正証書原本不実記載罪(および同供用罪)を構成するか。
規範
刑法157条1項の「権利義務ニ関スル公正証書」とは、公務員が職務上作成する文書であって、権利義務に関するある事実を証明する効力を有する文書を指す。住民登録法(現・住民基本台帳法)に基づく住民票は、この定義に合致する公文書であると解するのが相当である。
重要事実
韓国籍を有し日本国籍を持たない被告人及びその家族7名が、外国人登録法の適用を受け住民登録法の適用がないにもかかわらず、虚偽の住民登録を企てた。被告人らは、自分たちが広島市内の特定の住所に居住する日本人である旨の不実の申出を行い、公務員をして住民票の原本に不実の記載をさせ、これを住民票綴に編綴させて市役所出張所に備え付けさせ、行使した。
あてはめ
住民票は公務員が職務上作成し、個人の住所や親族関係といった権利義務に密接に関連する事実を証明する機能を持つ。本件では、日本国籍を持たず住民登録の対象とならない被告人らが、日本人であると偽って住民票に不実の記載をさせた。この行為は、権利義務に関する事実を証明する効力を持つ公文書の内容を偽らせたものであり、同条の保護法益である公文書に対する公共の信用を害するものといえる。
結論
住民票は刑法157条1項の「権利義務ニ関スル公正証書」に該当する。したがって、住民票に不実の記載をさせる行為は公正証書原本不実記載罪を構成する。
事件番号: 昭和34(あ)608 / 裁判年月日: 昭和36年6月20日 / 結論: 破棄差戻
住民登録法による住民票は、刑法第一五七条第一項にいわゆる「権利義務ニ関スル公正証書」にあたる。
実務上の射程
本判決は住民票の公正証書性を肯定したリーディングケースである。実務上、公正証書原本不実記載罪の客体については、登記簿や戸籍簿といった伝統的なもののほか、住民票のように特定の事実(住所等)を公証し、行政・私法上の権利義務の基礎となる文書が含まれるかどうかが論点となる。本判決の規範は、対象文書の「作成権限者(公務員)」と「証明対象の性質(権利義務への関連性)」の二点から検討する際の指針となる。
事件番号: 昭和46(あ)2696 / 裁判年月日: 昭和48年3月15日 / 結論: 棄却
住民基本台帳法に基づく住民票の原本は、刑法一五七条一項にいう「権利、義務ニ関スル公正証書ノ原本」にあたる。
事件番号: 昭和24(あ)2427 / 裁判年月日: 昭和36年3月30日 / 結論: 棄却
一 土地台帳は、刑法第一五七条第一項にいわゆる権利義務に関する公正証書にあたる。 二 土地の分筆申告書に添附するため、県庁から借り受けた図面を縮小変形して架空の地積とした測量図を作成することは、土地家屋調査士法第一二条にいわゆる虚偽の測量にあたる。
事件番号: 昭和31(あ)2416 / 裁判年月日: 昭和35年1月11日 / 結論: 棄却
たとい不動産の真実の所有者であつても、登記簿上他人名義で登記されている不動産につき、その印鑑を保管しているのを奇貨としてこれを使用し、その承諾がないのに、該不動産を同人から自己に売却した旨の売渡証書を作成し、これを原因としかつ自ら作成した同人名義の委任状を利用し、自己に所有権の移転を受けた旨虚偽の登録申請をなし、登録原…
事件番号: 昭和38(あ)2436 / 裁判年月日: 昭和39年6月2日 / 結論: 棄却
被告人は登記簿上の建物所有名義人甲との間に現実の売買の事実がないのに拘らず、売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成し、売買を登記原因として所有権移転登記を申請し、その旨登記簿原本に記載させるなど原判示所為に出たものであるときは、たとえ、右建物の真実の所有者が被告人であり、甲が将来その登記名義を被告人に変更することを予め諒…