一 原審は、本件公訴提起の訴因とこれを変更した後の訴因とは、基本的事実において同一であると認め、本件訴因変更により公訴事実の同一性が害されないと判断して居る。この判断は当裁判所の判例の趣旨とする所に従つて居るものであつて、正当である。(昭和二五年(れ)第五四八号昭和二六年一月一七日大法廷判決、刑集五巻一号二〇頁参照) 二 原判決の要旨両訴因を対比検討すれば、被告人は第二種原動機付自転車の後部座席に甲女を乗せ進行中県道上において右に横転し同女を死亡せしめる結果を発生せしめた点においては同一であり、ただ右の結果は、前訴因においては同乗していた同女が被告人の挙動に不審をいだき後部座席で体を前後左右に動揺させ停車ないし元の方向に引返すことを求めたのであるから被告人としては同女の動揺のために運転を誤り車を横転させる等により同女に危害を与えるかも計り知れないのであるから直ちに運転を中止する等危害の発生を未然に防止すべき義務があるに拘らずそのまま運転を継続した重大な過失に起因するとしたに対し、後の訴因においては、被告人は同女を適宜の場所に連行して強姦しようと企て後部座席に同女を同乗させ進行中被告人の挙動に不審をいだき体を前後左右に動揺させて被告人に対し停車ないし求の方向に引返すことを元めたのにこれを無視しそのまま運転を継続したため間もなく附近路上に右に横転させたことに起因するとしている。……原審が右訴因の変更を許容したことは正当である。
公訴事実に同一性の認められる事例−重過失致死と傷害致死
刑訴法312条,刑法211条後段,刑法205条1項
判旨
訴因変更における公訴事実の同一性は、基本的事実において同一であるか否かによって判断され、これに反しない限り訴因変更は許容される。
問題の所在(論点)
訴因変更が許される限界としての「公訴事実の同一性」(刑事訴訟法312条1項)の判断基準が問題となる。
規範
刑事訴訟法312条1項にいう「公訴事実の同一性」とは、公訴提起の訴因と変更後の訴因とを比較し、両者が基本的事実において同一である場合に認められる。
重要事実
本件において検察官は、当初の訴因を変更する旨の請求を行った。これに対し被告人側は、新旧訴因は公訴事実の同一性を欠くものであり、訴因変更を認めた原審の判断は法312条に違反するものであると主張して上告した。
あてはめ
本件における公訴提起の訴因と変更後の訴因を検討するに、両者はその基本的事実において同一であると認められる。したがって、当該訴因変更により公訴事実の同一性が害されることはなく、法312条1項の要件を充足していると解される。
結論
本件訴因変更は公訴事実の同一性の範囲内であり、適法である。したがって、被告人の上告は理由がなく棄却されるべきである。
実務上の射程
訴因変更の限界を「基本的事実の同一性」によって判断した昭和26年大法廷判決の準則を再確認したものである。実務上は、事実の共通性(単一性)と非両立性(狭義の同一性)の観点から具体的に検討する際の出発点となる。
事件番号: 昭和27(あ)6580 / 裁判年月日: 昭和29年8月24日 / 結論: 棄却
殺人未遂の訴因に対し傷害と認定するについては、訴因変更の手続を経る必要はない。