原判決によれば被告人は原判示児童を接客婦として雇入れるに当り、その実家を訪問し、直接、本人およびその両親について調査したのではあるが、その際同人等の差し出した実は他人の戸籍抄本を、同人等の陳述のみによつてたやすく児童本人のものであると軽信したというのであつて、そして原判決は、かかる場合においては、児童またはその保護者において、その雇入を希望するの余り、他人の氏名を詐称して年令を偽ること、殊に近頃のように年令確認の資料として戸籍抄本が利用されるようになると他人の戸籍抄本を恰も児童本人のものであるかのように使用することも当然ありうることとして容易に想像できるから、このことも考慮に入れて、先ずその差し出された戸籍抄本が児童本人のものであるか否か確むべきであり、それが為には、単に児童およびその両親の一方的な陳述だけでたやすく軽信することなく、他の信頼すべき客観的資料に基ずいて調査をなすべきであるのに、被告人はこれが調査を怠つているのであるから、いまだ児童福祉法第六〇条第三項但書にいわゆる年令を知らないことにつき過失がない場合に該当しないと解するのを相当とする。
児童福祉法第六〇条第三項但書にいわゆる年令を知らないことに過失がない場に該当しない事例。
児童福祉法60条3項但書
判旨
児童福祉法60条3項但書にいう児童の年齢を知らないことにつき過失がないというためには、提示された戸籍抄本等の客観的資料が本人に関わるものであるかを慎重に確認すべきであり、本人や両親の供述を軽信して他人の資料を本人のものと誤認した場合には過失が認められる。
問題の所在(論点)
児童福祉法60条3項但書における「児童の年齢を知らないことにつき過失がない」といえるための、雇主の年齢確認義務の具体的内容、特に提示された客観的資料の同一性確認の要否が問題となる。
規範
児童を雇用する際、児童福祉法上の年齢制限違反を回避すべき雇主の注意義務として、単に本人の陳述や外観のみで判断せず、戸籍抄本等の客観的資料によって年齢を確認すべきである。また、資料が提示された場合であっても、雇用を希望する者が他人の氏名を詐称し他人の資料を提示する可能性があることを考慮し、当該資料が真に本人に関するものであるかを、一方的な陳述に頼らず他の信頼すべき客観的資料に基づいて調査・確認する義務を負う。
重要事実
被告人は、児童を接客婦として雇用するにあたり、実家を訪問して本人および両親から直接事情を聴取した。その際、本人らは他人の戸籍抄本を本人自身のものとして提示したが、被告人は本人および両親の陳述を鵜呑みにし、当該戸籍抄本が本人自身のものであるかを他の客観的資料等で確認することなく、軽信して雇用に至った。しかし、実際には当該戸籍抄本は他人のものであり、本人は雇用制限年齢に満たない児童であった。
あてはめ
被告人は実家訪問や戸籍抄本の確認を行っており、一定の調査を尽くしているようにも見える。しかし、年齢を偽るために他人の戸籍抄本が利用されることは十分に想定できる事態である。本件において、被告人は提示された戸籍抄本が本人と合致するかを検討する際、利害関係を有する本人や両親の一方的な陳述を過信しており、それ以外の独立した客観的資料による照合を怠っている。したがって、客観的資料の同一性を確認すべき注意義務に違反しており、年齢を知らなかったことについて過失がないとはいえない。
結論
被告人には年齢の不知について過失が認められるため、児童福祉法60条3項但書の免責規定は適用されず、有罪とする原判断は正当である。
実務上の射程
行政取締法規における過失の有無が争点となる事案において、形式的な資料確認だけでなく、その実効性(資料と本人の同一性)まで踏み込んだ厳格な注意義務を課す際の論拠として活用できる。特に、偽装が容易に想定される場面での「軽信」を過失と評価するロジックとして有用である。
事件番号: 昭和51(あ)812 / 裁判年月日: 昭和51年11月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】児童福祉法違反の罪において、対象者が児童ではないと誤信していたとしても、戸籍謄本や親権者を通じた年齢確認を怠った場合には過失が認められ、処罰を免れない。 第1 事案の概要:被告人は、児童福祉法34条1項6号(淫行をさせる行為)および9号(児童を客に接する業務に従事させる行為)に該当する行為を行った…