一 所論刑訴三二一条第一項第三号但書の「特に信用すべき情況」については事実審の裁量規定に関する事項であり(昭和二五年(あ)第一六五七号、同二八年七月一〇日第二小法廷判決、集七巻七号一四七四頁参照)、また所論供述者が一八歳未満の者であることの一事をもつては、未だ右刑訴同条の「特に信用すべき情況」でないといい得ないことは論ずるまでもないところである。 二 第一審判決は特に被告人が児童の年齢を知つていたことを判文に明示してはいないけれども、犯罪の客観的事実を表示することにより右認識の存在を判示することができるのであり、第一審判決の判示事実と挙示の証拠のを通読すれば、被告人に右認識のあつたことを認定した趣旨をうかがうことができる。殊に児童福祉法六〇条三項には「児童の年齢を知らないことを理由として、前二項の規定による処罰を免れることができない。但し、過失のないときは、この限りでない。」と規定しておつて、被告人が児童の年齢を知つて犯行に及んだ場合は勿論これを知らなかつたことにつき過失のなかつたことを被告人において立証しない限りは処罰を免れないところである。本件において被告人がこのような立証をした事迹はないのであるから右認証の有無及び認識しないことについての過失の有無につき明示しなかつた第一審判決を違法ということはできない。
一 刑訴第三二一条第一項第三号但書の規定の趣旨 二 児童福祉法第六〇条第一項の罪については児童の年齢の認識または不認識についての過失の判示を要するか
刑訴法321条1項3号,刑訴法335条,児童福祉法60条1項,児童福祉法60条3項,児童福祉法34条1項6号
判旨
児童福祉法60条3項の規定により、被告人が児童の年齢を知らないことを理由として処罰を免れるためには、被告人側において過失がないことを立証する必要があり、その立証がない限り、年齢の認識や過失の有無を判決文に明示しなくても違法ではない。また、刑事訴訟法321条1項3号の「特に信用すべき情況」の判断は事実審の裁量に属し、供述者が18歳未満であることのみをもって直ちに同要件を否定することはできない。
問題の所在(論点)
1. 児童福祉法60条に関し、被告人の年齢の認識(故意)または過失の有無を判決に明示する必要があるか。 2. 供述者が18歳未満であることは、刑訴法321条1項3号但書の「特に信用すべき情況」の認定を左右するか。
規範
1. 児童福祉法60条3項の解釈:児童の年齢の不知を理由に処罰を免れるためには、被告人において過失のないことを立証しなければならない。立証がない場合、判決において年齢の認識や過失の存否を個別に明示せずとも、客観的事実の判示があれば足りる。 2. 伝聞例外(刑訴法321条1項3号):同号但書の「特に信用すべき情況」の存否は事実審の裁量認定に属する。供述者が18歳未満の者であるという事実のみでは、特信情況を否定する事由にはならない。
重要事実
被告人が、児童福祉法に違反する行為(児童を淫行の相手方とする等)に及んだとされる事案。第一審判決は、被告人が児童の年齢を知っていたことを明示的に判示していなかったが、客観的な犯罪事実を認定していた。また、証拠として所在不明となったA(18歳未満)の司法警察員作成の供述調書が採用された。被告人側は、年齢の認識に関する認定の欠如や、年少者の供述調書の特信情況を争い、上告した。
あてはめ
1. 児童福祉法60条3項は、年齢の不知により処罰を免れるには過失がないことの立証を要すると規定している。本件被告人は過失がないことの立証を行っておらず、第一審判決が客観的事実を判示し、証拠全体から認識の存在がうかがえる以上、別途明示的な判示がなくても違法とはいえない。 2. 伝聞例外の要件たる「特に信用すべき情況」は事実審の広範な裁量に属する。所論が指摘する「供述者が18歳未満である」という属性は、それ自体が特信情況を否定する決定的な要素とはいえず、所在不明により証拠能力を認めた判断に誤りはない。
結論
1. 被告人による無過失の立証がない限り、年齢の認識や過失の有無を明示しなくても判決に違法はない。 2. 供述者の年齢のみをもって特信情況を否定することはできず、原審の証拠採用は適法である。
実務上の射程
児童福祉法における年齢の認識に関する挙証責任の所在(実質的な責任転換)を示す。また、刑訴法321条1項3号の特信情況について、供述者の年齢等の属性が直ちに判断を左右しないという事実審の裁量を強調する文脈で活用できる。ただし、現代の juvenile justice や伝聞法則の厳格な運用に照らすと、特信情況の判断はより慎重な検討を要する場合があることに留意すべきである。
事件番号: 昭和29(あ)1539 / 裁判年月日: 昭和31年9月11日 / 結論: 棄却
児童福祉法第六〇条第三項により故意犯と過失犯とに同様の法定刑を科することは憲法第一一条に違反しない。