第一審において、裁判所より被告人に対し、弁護人を選任するや否やと照会していること明らかであり、仮に被告人よりこれに対し、貧困のため弁護人を選任しえない旨回答したことが所論の如くであつたとしても、これを以つては未だ、積極的に弁護人選任を請求したものとはなしえない。
「貧困のため弁護人を選任しえない」旨の回答は国選弁護人選任の請求となるか。
憲法37条3項,刑訴法36条,刑訴法272条,刑訴規則28条
判旨
弁護人がいなければ開廷できない事件を除き、被告人が積極的に弁護人の選任を請求しない場合には、国選弁護人を付さずに審理を進めても憲法37条3項に違反しない。
問題の所在(論点)
必要的弁護事件ではない事件において、被告人が「貧困のため選任できない」旨を回答したにとどまる場合に、裁判所が国選弁護人を付さずに審理を進めることは、憲法37条3項の保障する弁護人依頼権を侵害するか。
規範
必要的弁護事件(刑事訴訟法289条1項)以外の事件において、憲法37条3項後段に基づく国選弁護人の付与は、被告人による積極的な請求があった場合にのみ義務付けられる。したがって、被告人が選任の請求をせず、かつ弁護人の不在に対して異議を述べない場合には、弁護人なしで審理を行っても憲法違反とはならない。
重要事実
被告人は第一審において、裁判所から弁護人を選任するか否かの照会を受けた。被告人はこれに対し、貧困のため弁護人を選任できない旨を回答したが、その後、公判前または公判廷において自ら積極的に弁護人の選任を請求することはなかった。また、弁護人が立ち会わないまま開廷されたことについても何ら異議を述べておらず、そのまま判決に至った。被告人はこの手続が憲法37条3項に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件は必要的弁護事件ではない。裁判所は被告人に対し弁護人選任の意向を照会しており、権利行使の機会は与えられていた。被告人が述べた「貧困のため選任できない」という事実は、選任を希望する「請求」とは直ちに評価できず、他に積極的に選任を求める意思表示も見当たらない。また、弁護人不在のまま開廷されることに対し異議も述べていない以上、被告人に選任を請求する意思があったとは認められない。したがって、裁判所が国選弁護人を付さなかったことに手続上の違法はない。
結論
被告人が積極的に国選弁護人の選任を請求しなかった以上、弁護人を付さずに審理を行ったとしても憲法37条3項には違反しない。上告棄却。
実務上の射程
憲法37条3項の「請求」が、単なる資力欠如の表明ではなく、明示的かつ積極的なアクションを要することを示した判例である。答案上は、被告人の権利保護の観点から「請求」の有無を認定する際の規範として活用できるが、現代の刑事訴訟法下では国選弁護制度が拡充されているため、憲法論に立ち入る前の段階で手続規定の解釈が先行することに留意が必要である。
事件番号: 昭和41(あ)666 / 裁判年月日: 昭和42年1月27日 / 結論: 棄却
国選弁護人の選任に関する刑訴法第三六条、刑訴規則第二八条は憲法第三七条第三項に違反しない。