判旨
被告人の氏名や本籍が不詳であっても、起訴状に記載された被疑者と公判廷に現れた本人が同一人であることが確認され、その者に対して審理・判決が行われている以上、被告人の同一性に欠けるところはなく適法である。
問題の所在(論点)
被告人の氏名、本籍、前科等の身許情報が客観的に確定していない場合、被告人が特定されているといえるか。公訴提起および判決の対象となる被告人の同一性が問題となる。
規範
被告人の特定とは、公訴の提起を受けた者が誰であるかを確定することをいう。氏名、本籍、住居等が不明であっても、起訴された被疑者と公判廷において審判を受ける者が、事実上同一の肉体的実在として把握されている限り、被告人の同一性は保たれ、審理および判決の効力はその本人に及ぶ。
重要事実
被告人は強盗傷人の現行犯として逮捕されたが、捜査段階から氏名(AことD)、本籍(樺太市、後に鳥取県と主張するが該当なし)、住居(不定)がいずれも曖昧であった。第一審および原審は、被告人が自ら供述した氏名や生年月日等の情報に基づき「AことD」として手続を進め、有罪判決を言い渡した。弁護人は、被告人の身許に関する証拠資料が不十分であり、被告人の特定に欠ける旨を主張して上告した。
あてはめ
本件では、現行犯逮捕手続書に記載された被疑者本人が、そのまま公訴を提起され、第一審および第二審の公判廷に自ら出頭して身許について自解している。第一審および原判決は、この出頭した本人に対して審理を行い判決を言い渡したものである。客観的な身許資料が乏しいとしても、起訴状に記載された人物と現に審判を受けた人物との同一性は、公判廷での自供や各証拠によって明確に確定されている。したがって、被告人が特定されていないという違法は認められない。
結論
被告人の特定に欠けるところはなく、被告人本人に対してなされた原判決に違法はない。上告棄却。
事件番号: 昭和25(れ)503 / 裁判年月日: 昭和25年7月11日 / 結論: 棄却
一 公判調書や判決書の冒頭に被告事件名を記載したり、裁判長が公判審理を開始するに當つて被告事件名を告知することは、審判される事件を簡明に表示するために行われている實例であるが、別段に訴訟法上の要請に基くものではなく、またこれによつて審判の對象は判決書においてはその理由中に明記され公判廷においては起訴状に記載された公訴事…
実務上の射程
被告人を特定する基準について「表示説(起訴状の記載)」だけでなく「意思説」や「行動説(現に審判を受けている者)」を複合的に考慮し、実質的な同一性を重視する立場を示す。氏名不詳(氏名冒用など)の事案において、真の被告人が誰であるかを論じる際の基礎となる判例である。
事件番号: 昭和23(れ)1861 / 裁判年月日: 昭和24年4月30日 / 結論: 棄却
自白を補強する証拠は、必ずしも自白にかかる犯罪構成事実の全部にわたる必要はなく、自白にかかる事実の真実性を保障し得るものであれば足りる。