強盗に着手した者が、被害者に暴行を加えて傷害の結果を生ぜしめたときは、財物奪取の目的を遂げない場合でも強盗傷人罪の既遂をもつて論ずべきである。
強盗傷人罪の成立。
刑法240条
判旨
強盗に着手した者が被害者に暴行を加えて傷害の結果を生ぜしめたときは、財物奪取の目的を遂げない場合であっても、強盗傷人罪の既遂をもって論ずべきである。また、本罪は強盗の実行中又はその機会に傷害の結果を発生させることで成立する結合犯である。
問題の所在(論点)
強盗に着手した者が財物を奪取しなかった場合において、傷害の結果が発生しているときに強盗傷人罪(現:強盗致傷罪)の既遂が成立するか。すなわち、本罪の既遂・未遂の区別は、強盗の成否(財物奪取の有無)と傷害の成否のいずれを基準とすべきか。
規範
強盗致傷罪(刑法240条前段)は、強盗の実行に着手した者が、強盗の実行中又はその機会において、その手段たる行為若しくはその他の行為により人に傷害の結果を発生させることにより成立する強盗罪と傷害罪の結合犯である。したがって、強盗致傷罪の既遂・未遂は、財物奪取の成否ではなく、傷害の結果の発生の有無によって決せられる。
重要事実
被告人は、財物奪取の目的で強盗に着手したが、目的を遂げなかった(財物奪取未遂)。しかし、その際に行った暴行により、被害者に対し、全治約10日間を要する前額部擦過傷及び左前膊中指切創の傷害を負わせた。弁護人は、財物を奪取していない以上、既遂罪として処断することは違法であると主張した。
あてはめ
本件において、被告人は強盗の実行に着手しており、「強盗」の身分を有する。被告人の暴行は、強盗の実行中に行われたものであり、これにより被害者に全治10日の傷害を負わせたという結果が発生している。本罪は傷害の結果の発生をもって既遂となる結合犯である以上、財物奪取の目的を遂げなかった事実は、既遂の成立を妨げるものではない。
結論
強盗に着手し、財物奪取に至らなくとも、被害者に傷害を負わせた以上、強盗傷人罪の既遂が成立する。
実務上の射程
強盗致傷罪の既遂基準が「傷害の結果」にあることを明示した重要判例である。答案上は、240条の既遂・未遂の区別が問題となる場面で、本罪の趣旨が「人の生命・身体の保護」にあることに触れつつ、本判例を根拠として傷害発生時の既遂成立を論じる。なお、強盗殺人罪においても同様の理(死亡の結果で既遂)が妥当する。
事件番号: 昭和40(あ)1868 / 裁判年月日: 昭和40年12月24日 / 結論: 棄却
強盗に着手した者が、被害者に暴行を加えて傷害の結果を生じさせたときは、財産上不法の利益をえることができなかつた場合においても、強盗傷人罪の既遂となるものと解するのが相当である。