弁護人の上告趣意第一点は、第一審第四回公判期日に弁護人不出頭なるに拘らず、これを公判期日に切り替えてA外二名の証人調を実施したのは、刑訴二八九条に違反し、延ては憲法三七条三項にも違反するものであり、原審が右違法な手続を是正すべき機会である同証人らの尋問請求を却下したのも同様で違法である、というに帰する。記録によると第一審の訴訟手続が所論のように実施されたことは明らかである。しかし公判準備手続において証人調を行うことについては、検察官、被告人とも同意しているし、かつ第一審が証拠として採用したのは、これにより作成された証人尋問調書であつて、その証拠調については、弁護人も同意している。してみれば第一審の手続に所論のような違法があるとはいえない。
公判準備期日における弁護人の不出頭と刑訴法第二八九条。
刑訴法289条,刑訴規則52条の2,刑訴規則194条,刑訴規則194条の2,刑訴規則194条の3,刑訴規則194条の7,憲法37条3項
判旨
必要的弁護事件において、弁護人が不在のまま公判期日を公判準備手続に切り替えて証人尋問を実施したとしても、検察官・被告人の同意があり、かつ後の公判期日において当該尋問調書の証拠採用に弁護人が同意している場合には、手続は違法とはいえない。
問題の所在(論点)
必要的弁護事件において、弁護人不在のまま公判期日を公判準備に切り替えて実施された証人尋問の手続が、刑訴法289条の必要的弁護の規定に違反し、無効となるか。
規範
必要的弁護事件(刑訴法289条1項)において弁護人が欠けた状態で公判手続を行うことは原則として許されないが、公判準備手続としての証人尋問については、関係当事者の同意があり、かつ後の公判期日において弁護人の関与のもと適法に証拠調手続(同意手続等)が履践されるのであれば、実質的な防御権の侵害はなく、手続全体の適法性は否定されない。
重要事実
必要的弁護事件である恐喝被告事件において、第一審の第四回公判期日に弁護人が不出頭であった。裁判所は、当該期日を「公判準備期日」に切り替えた上で、検察官および被告人の同意を得て、証人3名に対する尋問を実施した。その後、正式な公判期日において、当該準備手続で作成された証人尋問調書を証拠として採用する際、弁護人はこれに同意した。被告人側は、弁護人不在での証人尋問は刑訴法289条および憲法37条3項に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件では、公判準備手続への切り替えおよび証人尋問の実施について、検察官のみならず被告人自身も同意している。さらに、第一審が証拠として採用したのは、当該準備手続において作成された証人尋問調書であり、その証拠調手続においては弁護人が出頭した上で同意を与えている。このように、当事者の同意に基づき準備手続が取られ、その後の証拠採用過程で弁護人によるチェック機能が果たされている以上、弁護権の不当な制限や適正手続への違反があったとは評価できない。
結論
本件証人尋問の手続に違法はなく、これに基づき証拠採用を決定した原審の判断も正当である。上告棄却。
実務上の射程
必要的弁護事件における弁護人の出頭要件の例外を示唆する判例である。公判手続そのものを弁護人抜きで進めることはできないが、準備的性格を有する手続において被告人が同意し、かつ事後に弁護人が証拠同意等で追認した場合には、瑕疵が治癒される、あるいは違法性が否定されるという論法に活用できる。
事件番号: 昭和35(あ)436 / 裁判年月日: 昭和35年6月10日 / 結論: 棄却
裁判所が、立証趣旨その他により、証人が被告人の面前においては圧迫を受け充分な供述をすることができないと認めたとき、刑訴第三〇四条の二により、証人の供述中被告人を退廷させても、弁護人が終始右証人の尋問に立ち会つて主尋問をしており、且つ、供述終了後被告人を入廷させ、これに証言の要旨を告知して、その証人を尋問する機会を与え、…