論旨は違憲をいうが、憲法第二六条第二項は「すべて国民は法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を追う」旨規定し、これに基き教育基本法第四条第一項は「国民はその保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を負う」と規定するところ、被告人の国民として負う右法律上の義務は、被告人が実刑に処せられると否とによつて何等の消長をも来すべきものではないこというまでもなく、被告人が実刑に服することによつて、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務履行上に事実上支障を与えるか否かの如きは右教育基本法の関知しないところといわなければならない。されば右違憲の主張はその前提を欠くものである。
実刑と教育基本法第四条第一項に規定する「その保護する子女に普通教育を受けさせる義務」。
憲法26条2項,教育基本法4条1項
判旨
憲法26条2項等に基づく義務教育履行義務は、被告人が実刑に処せられるか否かによって消長するものではなく、服役による事実上の履行上の支障は法の関知しないところである。
問題の所在(論点)
実刑判決により身体の拘束を受けることが、憲法26条2項及び教育基本法が定める「子女に普通教育を受けさせる義務」の履行を不可能にするとして、当該実刑判決が違憲となるか。
規範
憲法26条2項及び教育基本法に基づく「保護する子女に普通教育を受けさせる義務」は、国民が負う法律上の義務であり、刑罰の執行という別個の国家作用によって消長を来たす性質のものではない。刑の執行に伴う事実上の義務履行への支障は、当該教育義務の法的存否に影響を与えない。
重要事実
被告人が刑事事件において実刑判決を受けたのに対し、被告人は、自らが実刑に処せられ服役することになれば、保護する子女に普通教育を受けさせる義務(憲法26条2項、教育基本法4条1項)を履行できなくなり、違憲である旨を主張して上告した。
あてはめ
被告人が主張する「子女に普通教育を受けさせる義務」は、国民としての法律上の義務である。この義務は、被告人が実刑に処せられるか否かという刑事責任の有無やその執行とは独立して存在する。実刑に服することで生じる物理的な支障は、あくまで義務履行上の事実上の困難にすぎず、教育基本法等の予定する法的義務の消滅事由とはならない。したがって、実刑判決が憲法26条2項に反するという前提自体が成立しない。
結論
実刑判決は憲法26条2項に違反しない。被告人の義務履行に対する事実上の支障は、判決の効力を左右するものではない。
実務上の射程
教育を受ける権利(学習権)や義務教育履行義務を根拠に、刑罰権の行使(実刑判決)の妥当性を争うことはできないとする射程を持つ。憲法上の義務が、個人的な事情や他の法的地位の喪失によって免除されるものではないことを示す法理として活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)3837 / 裁判年月日: 昭和30年5月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法25条1項は、国家が国民に対して概括的に健康で文化的な最低限度の生活を営ませる責務を負うことを定めたものであり、個々の国民に対して直接に具体的・現実的な権利を付与するものではない。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件における上告に際し、量刑不当を主張するとともに、弁護人が憲法25条1項(生存権…