判旨
検察官による論告において、必ずしも個別の具体的な適用法令を逐一指摘する必要はなく、「相当法条を適用されたい」旨の陳述であっても、法律の適用に関する意見の陳述として有効である。
問題の所在(論点)
検察官が論告において具体的な適用法令を個別に指摘せず、「相当法条を適用されたい」と述べるにとどまった場合、刑事訴訟法が定める「法律の適用に関する意見の陳述」として有効か。
規範
刑事訴訟法における検察官の論告(法律の適用に関する意見の陳述)については、必ずしも具体的に個々の法令を指摘することを要しない。包括的に相当な法条の適用を求める趣旨の陳述であっても、同法の要求する意見陳述として法的に許容される。
重要事実
被告人に対する刑事裁判において、証拠調べ終了後、検察官が事実および法律の適用について意見を陳述する際、具体的な適用法条を個別に列挙せず、単に「相当法条を適用されたい」旨の陳述を行った。弁護人は、このような抽象的な陳述は法律の適用に関する意見の陳述として不十分であり、訴訟手続に違法があるとして上告した。
あてはめ
検察官には証拠調べ終了後に意見を陳述する機会が与えられていれば足り、仮に検察官が意見を述べなかったとしても直ちに手続が違法となるものではない。本件のように「相当法条を適用」云々の陳述がなされたのであれば、それは法律の適用に関する検察官の判断を示したものと評価でき、具体的な法令の個別指摘が欠けていても、形式・実質ともに法律の適用に関する意見の陳述を妨げるものではない。
結論
検察官の論告において具体的な法条の指摘がなくても、相当法条の適用を求める陳述があれば、法律の適用に関する意見の陳述として適法である。
実務上の射程
実務上、検察官の論告義務の程度を明らかにしたものである。検察官に意見陳述の「機会」を与えることが重要であり、陳述の内容が抽象的であっても手続的な違法とはならないため、弁護側が形式的な不備を理由に訴訟手続の違憲・違法を主張する際の限界を示す判例として機能する。
事件番号: 昭和26(あ)5155 / 裁判年月日: 昭和28年7月17日 / 結論: 棄却
原裁判所が本件についてなした裁判が、具体的に公正妥当を欠くとの理由で、右裁判を目して憲法三二条(論旨に三三条とあるは誤記と認める)に違反するものということのできないことは当裁判所の判例の趣旨に徴し極めて明かである(昭和二三年(れ)第五一二号同二四年三月二三日大法廷判決参照)。